本当は、明日から2泊3日の旅行へ行く予定だった5月2日の夜、
ちょっと家庭の都合により中止となる。

旅行が中止になってしまったのは残念だが、とりあえず釣りに行ける。

明日の3日、一人で釣りに行くと言っていた永田名人に連絡を取り、
急遽二人で小野田一文字へ。

まぁ、急に決まったことなんで、1番船には乗れず2番船にて一文字に上陸。

予想はしていたが、さすがはゴールデンウィーク。
ここ一文字も大混雑である。
ぱっと見、20人は軽く超えている。

今日も状況は厳しいんだろうなと、容易に推測できる。

仕掛けを作り釣り始めるのであるが、今日はどうにも永田名人の様子が
おかしい。
釣りに集中できていないというか、心ここにあらずというか。

どうしたのかと問うと、ちょっと家庭で問題が発生したらしい。

少しでも何か心に引っかかる事があると、釣りも心底楽しめないんだよねぇ。
痛いほどわかります。

いつもは1時間もすれば、軽快にボラとのやり取りで竿を曲げてくれる
永田名人であるが、今日の彼のBB-Xは沈黙を保ったまま。

竿は、主の心境を代弁している。


当の私、ある程度覚悟はしていたとは言え、釣り初めから3時間を
経過してもなお、魚の生命反応すら感じる事が出来ていない。
付け餌は、形を変えずそのまま戻ってくる。

様子を見に来られた船長に他の方の状況を聞くも、

「今日はほんとに最悪。やっぱり人が多いから、撒き餌が散って駄目
 なんじゃろうのー。」との答え。

未だにどの釣り座でもチヌの姿は見えていないらしい。


これまでであれば、こういったシチュエーションならば間違いなく諦めて
永田名人の浮きに向かって撒き餌を全力投球して遊んだり、横になって
休憩するんだが、今年の私は少し違う。

状況が厳しいだろうなってのはガッテン承知の助。

ある意味、ここからが勝負。

誰かがこの厳しい状況を打破するのを待っているのではなく、
私が狼煙を上げましょう。

喰わぬなら、喰わせて見せようチヌ吉君。 


丁度その時、船長から他の釣り座でようやくチヌが上がったとの情報が入る。

時合が来たか?


ハリスを1.25号から1号に落とした一投目、微妙だが浮きが前当たりっぽい
挙動を見せる。
竿に聞いてみると確かに生命反応。
すかさず合わせを入れる。

私「永田、来た!」


すくってもらったのは、38cmのまずまずのノッコミチヌ。

最近、状況が芳しくないときには、色々と試してみることが出来るようになった。
頻繁にハリスを新しい物に交換することは、かなりの有効手段。
少しずつ成長してるぞ。 俺。  うふっ。

しかしその後も一文字全体は、変わらず渋い状況が続く。
全体でも2,3枚程度しか釣れていない模様。

10時過ぎ、家の事が気になって釣りに集中できない永田名人が早めの帰宅。

「バトンを渡すよ。後は任せる。」と、使い残した撒き餌を私のバッカンに移す。

「俺、ほんとにチヌが釣れない。もう釣りをやめようかなぁ」なんて、
驚きの弱気発言まで飛び出した。

私「おいおい、駄目だって。
 チヌが駄目でも、永田にはボラがあるじゃない。
 釣りをやめちゃだめだって。ボラをやめちゃだめだって。
 これから日本を背負って行くんだろ?ボラで世界を獲るんだろ?
 自分を信じて!  ボラを信じて!」


事実、彼から引き継いだ撒き餌を使ってみたところ、数分も経たぬうちに
大量のボラ寄ってきた。

「大丈夫だよ永田。今日は心理的に沈んでたから釣れなかったけど、
 ちゃんと奴らは寄ってるから。
 永田の撒き餌は常人には作れない最高のオリジナルブレンドだから。
 今年、チヌはまだ釣れてなくても、ボラは軽く二桁超えてるんだから。
 十分イケてるって!」

私の説得により、なんとか最悪の事態は免れることができたが、
いつになく今日の彼には覇気が無かった。

「また今度、心配事が無く、心おきなく釣りが出来るときにリベンジしようぜ!」

そっとつぶやきながら、彼の後ろ姿を見送る。


さてその後。

相変わらず変化無く状況は厳しいままだが、先ほど永田にもらった撒き餌に
どこからともなく大量のボラが寄って来る。

38cm以降、何の変化もなく退屈していた私に、ふと遊び心が芽生える。

私「ちょ、ちょっとだけ引きを味わいたい。」

これだけボラが沸いてれば、掛けることは簡単だが、
掛けるまでの行程を他の釣り師に見られることが恥ずかしい。

おそるおそる周囲を見渡すが、周りに人は居ない。
永田ブレンドをドカ撒きし、挿し餌の位置を確認しながら表層をゆっくり
引いてやる。

ボラは一度食いついてもすぐに吐き出すので、合わせのタイミングが
難しいのだが、パクッと食いついたのを見届けた瞬間に
 「シュン」 と竿をシャクってやると・・・

「来た来た来た来た〜!」

永田〜、ちゃんとバトンは引き継いだど〜! 永田の意志は引き継いだど〜!

とりあえず永田の仇は討ったので、真剣に自分の釣り。

時刻は11時。
12時の帰り便に間に合わせるため、残り時間は30分ちょい。

潮は満潮の時刻を過ぎ引き始めているのだが、大潮ということもあり
左流れのかなり速い流れ。

ラストチャンスとばかりに、ハリスを更に0.8号に落とし、2Bのガン玉を打つ。

これまたハリスを交換した1投目、小さく押さえ込むようなアタリがあり、
先ほどよりも二回りばかり小さいが、なんとか2枚目確保!

その後、ずっしりとした手応えの推定チヌを合わせで乗せるが、
痛恨のハリス切れ。

取り込みよりも喰わせを重視した細仕掛けで、切られることは覚悟して
いるんだが、逃がした魚は大きかった〜。

時間も迫ってきているし、今からハリスを結ぶのも難儀なので、ここで終了。
後で船長に聞くと、ほとんどの人が釣れていない模様。

最高で2枚らしい・・・     って・・・      俺か?

いやぁ、今日はいい酒が飲めそうだ!


信じられない話だが、
ほんとに永田から貰った撒き餌を
撒いた途端、大量に寄ってきた。
永田の仇は俺が討つ!
いやぁ、今日は気分が良い。


5月3日  渋い状況の中で・・・