11月04日 開眼!


秋も大分深まってきた。
朝、晩は結構寒い。
今シーズンも、もう釣りに行けなくなる。

だがしかし、私にはまだ今シーズン、やり残したことがひとつだけあった。
まだ、野波瀬筏のチヌを見ていないということだ。

野波瀬のチヌには何かこう、特別なものがある。
特に私にとってここは、初めてチヌ釣りに挑戦した、出発の場所。

しかしながら、未だ私はここでチヌを釣ったことがない。
かかり釣り、ダゴチン釣りと色々挑戦してみたが、ことごとく返り討ちに
あってきた。

筏への渡しチケットの半券10枚を集めれば、1回ただで乗れるシステムを
すでに2回使っている私は、最低でも過去20回は筏に上がっていると
いうことになる。

会長と名人は、すでに野波瀬筏のチヌは難しいと、あきらめてしまった。
だがしかし、私にはどうしてもあきらめきれない。

その釣りが、難しければ難しいほど、なんとかしたくなる。
私はそんな、ひねくれた性格だ。


今日の私には、超強力な助っ人がいた。
野波瀬筏では、知らない人がいないほどの超有名人の某氏。

あえてここでは、大先生と呼ばせてもらうが、その大先生の釣りへ、
こんな初心者の私が同行させていただけるのだ。
更にはなんと、ここでのチヌの釣り方を色々と教えてくださるとのこと!

「今日は絶対釣れる!」といった、不思議な確信を胸に抱き、いつもは3人で
通る野波瀬への道のりを一人、寂しく車を走らせた。

ちなみにどうしてこんな初心者大魔王な私が、そんな大名人と知り合いかと
いうと、まぁ、同じ巨チヌを求める同士というか、蛇の道は蛇というか、
とりあえずそんな感じだ。


さて、早朝4時半、野波瀬漁港へ到着。
1番船は5時半出港の予定だが、狙いの筏確保のためにかなり早めの集合。
ちなみに本日は、私と大先生と、2人の共通の知人のA氏の3人での釣行である。

大先生、まずは沖を見て、今日吹く風と照らし合わせ、本日の釣りを
シュミレーション。今日はあの筏のどの釣り座がよく釣れ、
午後3時15分に大物が来る!とまで予言してくださった・・・。

ほんとに沖を見ただけでわかるのかと半信半疑の我々をよそに、
一番釣れるであろう釣り座に狙いを決め、続々と集まる常連さんと釣り座交渉を
行っておられる。

常連さん達には、
「どうしてもチヌを釣らせたい2人がいるので、今日は釣り座を譲って欲しい」
とまで言って、交渉してくださった模様。本当にありがとうございます。

で、船に乗って狙いの筏へ到着したものの、
マナーを知らない、明らかに今日が初めてです!とおぼしき若者2人に、
危うく釣り座を取られるところであった。

「若者よ、どこの釣り場にも暗黙の了解的なルールというものがあり、
初めての釣り場に行くときには、その辺を見極めるのも大切だと思うぞよ!」

ちなみに彼らがどんなことをしたかというと、船が筏に着くか着かないかの所で、
ピョンっと船を飛び降り、狙いの釣り座を一目散にダッシュで確保し、サビキを
開始!

しかし、あっちでチヌが釣れれば、ダッシュで取った釣り座を捨て、
隣に入ってサビキをシャクシャク!

こっちでヒラメが釣れればこっちへ移動しサビキをシャクシャク!

きっと彼らには悪気は無く、その辺の最低限のマナーを知らないだけだと思うが、
せめてこのページを見てくれていれば、次回からは直して欲しいと思う。


さて、本題へ。

とりあえず、サビキの若者二人組は別の面に座ったので、狙いの釣り座は
確保することができた。

早々と仕掛けを組む私に、大先生が話しかけてくる。

大先生「どんな仕掛け使ってるの?」

私「どんな仕掛けって、いたって普通ですが・・・」と、仕掛けを見て頂く。


「んっ?」  大先生の顔が一瞬曇る。

大先生「今までもこの仕掛けで釣ってた?」

私「そうですが・・・、  何か?」

大先生「気を悪くしないでね。野波瀬でこの仕掛けじゃ、ちょっと難しいかもよ・・・」


以外だった。

本や、テレビで見た仕掛けをそのまんまを使っていて、それが普通だと思って
いた。棚さえ取れてりゃ、大して釣果は、変わるもんじゃないと思ってた。

だがしかし・・・。



「気を悪くなんて、めっそうもございません。
今日は、柔軟に、忠実に先生の教えを守り、ここの釣りをモノにしたいと
考えております。変な所があれば直しますんで、ビシバシ指摘してください!
顔だけは指摘されても直せませんけど・・・」

で、私の仕掛けを道糸から針の先まで、更には餌の付け方まで見ていただき、
気になる箇所を、その理由も交えて教えていただいたわけですが、正直、

「参りました!」

としか、言えませんでした。

いつも、何の気無しに使っていた仕掛け一つが、そんなに奥が深いとは・・・
ここで書くと長くなるので割愛させて頂くが、本当に驚いた。

まさか、仕掛けを流すハリスの角度までが釣果に影響を及ぼすとは・・・

そりゃあ、何回ここに通っても釣れないはずだわ! って痛感致しました・・・

大先生「去年会った時には、詳しく説明してもわからなかっただろうから教え
     なかったけど、今ならなんとなく言ってる意味がわかるでしょ?」

私「はい。  なんとなくですが・・・」  

大先生「他の釣り場でも、この仕掛けならもっと釣れるようになるよ!」


いやぁ、目からうろこでした。
一気にレベルが10くらい上がった気がしました。

例えるならば、秘伝の書を授けられたとでも言うか・・・。


ドラクエ風に言うならば、

「副会長(職業:チヌ釣り見習い)は、賢者の石と秘伝の書を天にかざし、
悟りを開いて賢者になった!」  

大袈裟だが、それくらいのレベルアップした気がした。

教えられたとおりに仕掛けを作り、教えられたとおりに流してみる。

するとどうであろうか・・・

過去、どうやっても出ることの無かったチヌの前あたりが、見事に浮きに
出始めたのだ。

そして団子も効いてきた午前10時5分。
遂に感動の野波瀬のチヌを手にすることができたのだ。

野波瀬特有の、丸々と太った体高のある40cm。
こんなにうれしい思いは、いつ以来であろうか。

「生まれて初めてのチヌを釣った時も、確かこんなだったっけ・・・」
そんなことを思い出していた。

同行していたAさんも、初めての野波瀬チヌを手にし、
あとは、どちらが大物を釣るか?
2人の間には、なんとなくそんな空気が流れていた。



そしてその時は前触れもなく訪れた。



Truuuuuuu Truuuuuuu

やっぱり今日も職場からの電話だった・・・


内容は、たわいもない物だったのでとりあえず対応していると、
浮きがジワーッと海中へ吸い込まれた。

電話で会話しながらとりあえず片手で合わせると、今だかつて
味わったことの無いずっしりとした重量感が、手元に伝わって来た!

「ちょっとすいません!」と電話を筏の上に放り投げると、のちに後世にまで
語り継がれていくのではないかと思うくらいの、壮絶なバトルの幕が上がった!


大先生「来た?」

私「はい!相当でかそうです!」

ただならぬ私の慌てぶりと、竿の曲がり方を見て、私の横で釣りをしていた
Aさんに向かって大先生が叫ぶ!

大先生「Aさん、仕掛けを回収してあげて!」


先ほど、大きなヒラメを釣りあげた常連さんと、別の釣り座で釣りをしている
常連さん、更にはサビキシャクシャクのヤングメンまでもが釣りの手を止め、
私のバトルを見守っている。

常連さん「この引きは、ボラじゃなかろう。チヌか、それとも真鯛か・・・  
      それにしても、でかいぞ!」

最近、暇なときはボラを釣ってるので、なんとなくボラとチヌの引きの区別が
できるようになってきた。
横に走る引きではなく、竿を叩くような引き。
それも今まで味わったことの無い強烈な引きとくれば・・・

ついに出るか???   夢の・・・    50cmオーバー!

それにしても、底が切れない。
竿は根元から満月のようにしなり、
ドラグはジージーと、悲鳴をあげるかのように苦しそうに糸を送り出している。


「やべぇ・・・  相当でけー・・・」


竿を持つ手が震え、激しく高まっていく心臓の鼓動がわかる。

気が付けば、他の筏からの熱い視線も感じている。

大先生も  「絶対バラすなよ!」 と、かなり興奮気味!

私「バラしたくないのは山々なんですが・・
         全然・・・    あがって来ません・・・


なんとか必死にポンピングを繰り返し、ドラグが送り出した分の糸だけは
回収していく!

その同じ動作を、何回繰り返しただろうか。
相変わらずあがってこない大物を相手に、私も必死だ。


大先生「そんな、必死な表情をパチリ!」

横で、私のかっこいい写真を撮ってくれる大先生!

思わず、ずっこけそうになる。危なかった・・・

私「とりあえず現像したら焼き増ししてくださいね!ホームページのトップに
載せますんで!」と心の中で思いながら、壮絶なバトルを続ける私。

私「チヌでも真鯛でもなんでもいい。とにかく、この大物を取り込みたい!」

ドラグを少しきつく締め直し、再びポンピング開始!

相変わらず、未知の大物は、海底深くへと潜り込もうとしている!


一体、どれだけの時間が流れただろうか・・・

おそらく数分程度しか経ってないのであろうが、私にはとてつもなく重く、
長い時間のように思えた。


そして・・・

ついにその未知なる大物が、我々の前に姿を現す時が来た!

張り詰めた空気の中、皆が息を呑んで見守ってくれた勝負の行方!

壮絶な戦いの末に姿を現した、その言葉では言い表せないくらいの
モンスター級の長い魚影を見て、思わず私は心の中でこう叫んだ!


私「またお前か!」



周囲を、緊張と興奮の渦に巻き込んだ、その、魚の正体。
今までに無い強烈な引きを見せたその魚の正体は、真っ赤な真鯛でもなく、
真っ黒なチヌでもなく、スーパーロングなボラだった。
チヌでも真鯛でもなんでも良かったが、お前だけはちょっと嫌だ。

私「な、永っさ〜ん・・・」

しかも、横っ腹に針がぶっ刺さっさっており、従来のボラらしからぬ、
強烈な引きを見せてくれていたのだ・・・

一気にしらける場の空気。

大先生も、
「い、今の釣り方なら、50cmのチヌが来ても大丈夫だよ!
 針の結び目、チモトも大丈夫。うんうん。」とフォローしてくれる。

Aさんも、
「いやぁ、ナイスファイッ!  Yes ボラ!   ププッ・・・」 と、 
親指を立てて、私の栄誉を称えてくれる。


私「う、うれしくねぇ・・・」


そして、「な〜んだ。」みたいな感じで、それぞれの釣り座へと戻って行かれる
ギャラリーの皆さん。

私「ど、どうも皆さんお騒がせしました!」と、とりあえず誤ってみた。


筏の上でドタンバタン跳ねている、嫁の太もものように丸々と太ったボラを
恨めしく見つめながら語りかける。


「よりによってこんなグッドタイミングで来ちゃいますか・・・ 」



大物の実績が他の釣り場とは比べ物にならない野波瀬筏。
初チヌを釣り上げ、次は年無!と意気込んでいた矢先のこの場面で・・・。

他の釣り場でやらかすならともかく、よりによってこの野波瀬で、
しかもこのタイミングで、おまけに横っ腹にフッキングして、
ボラらしからぬ強烈な引きを見せてくれなくても・・・

  「掛けたおいらが悪いのか、掛かったお前が悪いのか・・・」

とりあえず、「え〜い、コノヤロ、コノヤロ、コノヤロ!」 と3回程度、
お仕置きで首を絞めた後、母なるお帰りいただいた。

「いい夢見せてもらったよ。  あばよ!」  と、心の中で思った。

はぁ〜あ・・・


結局その後は、私がチヌを2枚追加し、合計3枚。
大先生も予告の時間とは少しずれたけど、3時25分に本日一番の
46cmを釣り上げられた。
Aさんもチヌはもちろん、真鯛も2枚程釣り上げ、結果的には大満足の釣行と
なった。



今日の感想ですけど、野波瀬のチヌはやっぱり難しいと感じました。
こんなに良い結果せたにも関わらず、やっぱりそう思う。

今日は、天気がよく風もなく、とても釣りやすかった。
しかしながら、同じ条件で釣りをしたとしても、大先生がいなければ、
同じように釣れる自信が無い。
海を見て風を計算して、何時に大物が食うなんて、私にわかるはずがない。

更には、野波瀬は、風があり波が立っていることの方が多い。
そうなるともっと難しい釣りになる。
今日のように釣りやすい条件は、そう揃わない。

しかしながら、どういう仕掛けでどうやったら釣れるのかといった、
ヒントみたいなものは得られたように思う。
あとはここに通い、ここの雰囲気を掴み、自分で試行錯誤して自分の釣りを
組み立てていくのみ。   来年がとても楽しみだ。


とりあえず、今年やり残していた、野波瀬のチヌは釣ることができた。

身の程知らずの私が、初めてチヌを狙ったのが、この野波瀬筏だった。

初めてのときには、常連さんが10メートル先へ団子を投入するのを見て、
どうやったら餌をくるんだ団子をあんなに遠くへ投げられるのかすら
わからなかった。

我々が同じことをしても、団子は空中分解するばかりで、全く訳が
わからなかった。

自分なりに試行錯誤を重ね、大先生を始め、波止の名人、一文字の船長、
いろんな方に釣りを教えて頂き、今日ついに念願の野波瀬のチヌを、
「偶然釣れた」ではなく、「狙って釣る」ことができた。

本日、目標であった野波瀬のチヌを釣ることで、自分の気持ちの中で
ひとつの区切りはついたように思う。

しかしそれと同時に、 改めて釣りは奥が深いなと痛感した一日でもあった。


朝の海を見、風の吹き方を計算し、何時になったら釣れると予告し、
まさにそれを実現してくださった大先生。
なんだか魔法を見せられたようだった。

本当に自分は、まだまだ何もわかっていない初心者だなと感じた。

自分の知らない世界が、今まさに眼前に広がる大きな海のごとく、
無限に広がっていることを痛感した。

新しい仕掛けで、「今まで以上に釣れるようになるよ」と、お墨付きを
頂いたことで、改めてより多くのチヌ達と出会っていきたいと思った。

まだ見ぬたくさんのチヌ達が待つ、新たな旅路への扉が今、
開かれた気がした。




ちなみに会長は今日、
このスタイルで、下関のフィッシング
パークに行き、アジのサビキ釣りに
いそしんだようだ。

シャクシャク!
朝一、常連さんが釣り上げられた
巨大なヒラメ。

危うく、

「魚持って写真撮らせてもらっても
いいですか?」

と、聞きそうになった。
私の釣果!
3人での釣果!
記念すべき、野波瀬の初チヌ!