9月24日  ご無沙汰してますっ!

本日、9月24日は、永田名人と野波瀬イカダへ行く予定であった。

そして本来であれば、嫁は23日に実家に帰っているはずの予定であった。

しかしながら、23日11時過ぎ、釣りを終え家へ帰る途中の私に、まだ家に
居るという、嫁から電話がかかってきた。

嫁「どう?釣れた?」
私「4枚ほど。まだ家にいるなら、実家に持って帰る?
  あと30分ほどで着くから、待ってる?」
嫁「いや、でも子供がぐずって大変だから・・・」
私「あ、そう。そんならはよ行きーや。」

どうやらその、「はよ行きーや」ってフレーズがいけなかったみたい。

嫁・・・   突然のブチ切れ!

嫁「はよ行きーやってなんなん?」

私の脳裏に、ゴッドファーザーのテーマソングが流れた・・・

嫁「あんたは好きなことばっかりしてからええけど、
  私は、ぐずる子供釣れて今から長い道運転せんといけんのじゃけー。
  大体なんであんたは今日も明日も釣りな訳?
  どっちか1日は、家族サービスしーや。
  子供がぐずって大変なんやから、運転くらいしーや。」
私「いや、でも明日は、ずっと前からの永田との大切な約束が・・・」
嫁「それなら聞くけど、釣りと家族とどっちが大事なわけ?
  ここではっきりしーや。」

山口弁丸出しで、意味が分からない人のために通訳するが、
要はYESかNOかってゆーことだ。


私「釣・・・、  い、いや、か、家族でございます・・・」


ここで思わず、  「釣り」  と答えてしまい、後の人生が、取り返しのつかない大変な
事になってしまった人が、ごく身近に1名存在する。


生涯を大きく左右する人生の分岐点は、こんなに身近に存在する。


ずっと前から約束してて、かなり楽しみにしていた明日の野波瀬イカダ。
嫁にも伺いたてて、前から行くって言っていたにもかかわらず、突然の
ブチ切れ。結局野波瀬はキャンセルとなり、永田名人に迷惑をかけることと
なってしまった。永っさん、ごめんなさい。


さて、急遽暇となってしまった24日の日曜日。
朝9時、廃人のようにうつろな目でボーっと外を見ている私を見かねたのか、
嫁が釣りにでも行ってくれば?と言ってきた。

「今更?」  と思うも、特にすることはなく暇なので、久々に小田漁港に行って
みることにした。

ここは、私がチヌにどっぷりとはまるきっかけとなった場所と言っても過言ではない。
ここで、たくさんの名人方に、団子の練り方やら臨機応変な餌の選択等々、
色々なことを教えて頂いた。

一年ぶりに訪れた小田漁港は、天気も良く、絶好の釣り日和。
知った顔があるかなぁ? と、一人一人の顔を確認しながら歩を進め、波止の中ほどまで
来たとき、そこには去年とまったく変わらない穏やかな表情で竿を振る、
Nさんの姿があった。懐かしさがこみあげる。


私「Nさん、こんにちはっ!ご無沙汰してます。釣れてますか?」

Nさん「んっ? あ〜あ〜、 いや、釣れん。
    ところで・・・」

私「去年カニ取りとか、釣り方とか、色々と教えて頂いた者です。覚えておられますか?」

Nさん「んっ? あ〜あ〜、あっ? ああ〜。  はいはい。 はいっ?」

ぜ、絶対忘れられてる・・・


まぁ、無理もない。
毎日のように竿を出される、名人のNさん。
様々な顔ぶれの釣り師がここを訪れ、すれ違い、そして去っていく。
それを全部覚えておけと言う方が無理な話であろう。
私の存在は、Nさんの1年のうちの、365分の数日だったのだから。

とはいえ、ここまできたら、私もあとには引けない。
思い出してもらうまで必死だ。


私「去年、ミックでお世話になった、鶴亀です。」

Nさん「おーおー、思い出した。鶴亀の兄ちゃんか。」

話すと長くなるので割愛させていただくが、去年私は、ここの釣り場で、鶴亀の兄ちゃんと
呼ばれていた。


出会いのきっかけは、私が偶然に釣った、40cmのチヌだった。

去年、ようやく初のチヌを手にし、
少しだけうぬぼれ気味に、この釣り場に乗り込んできた。

偶然にもチヌが食いついてくれたものの、無論当時は、一人で玉網などさばいた事はなく
アタフタしてたところに登場してくださったのが、このNさんだ。

それをきっかけに顔見知りとなり、色々と教えて頂いた。

餌取りが多くて、私が釣りにならない中、バンバンチヌをあげておられたNさんに
どうしてそんなに釣れるのかと餌を聞きに行くと、嫌な顔ひとつせず、
むしろ笑顔で、「カニ」と教えて頂いた。

そして、餌箱の中から、数匹のカニを取り出し、使ってみろと私にくれた。
さらには、あそこでカニが採れるからと、カニの採り方まで教えて頂いた。
結果的にその日は、採取したカニで見事にチヌを釣り上げることができたのであるが、
あの時の感動、「良かったのー」と、自分の事のように喜んでくださった
Nさんの笑顔を、私は一生忘れません。


鶴亀の兄ちゃんで、私の事を思い出されたNさんの表情に、
懐かしい、人なつっこい笑顔が戻った。

Nさん「最近、顔見んじゃったが、釣れよるか?」

私「おかげ様で。Nさんのおかげで少しは上達したと思います。」

Nさん「それは良かった。道具持ってきてるなら、さぁさぁ、早く竿を出しんさい。」


この方の柔らかい話口調を聞いているだけで、日々の喧騒から逃れられる。
蓄積されたストレスが抜けていく。

なんと贅沢な時間であろうか。


時刻はもう10時で、大分出遅れてはいるが、釣れればラッキーぐらいの
勢いで、いっちょやりますか。と、意気込んで竿を出すが、
結局この日、私の棒浮きが海中に沈むことは無かった。


しかし、私の心はとても満ち足りていた。
一年前と何も変わらない風景のこの波止で、これまた何も変わらない、元気な姿で
竿を振っておられる、Nさんの姿を拝見することが出来たからだ。

話しかけると、これまた相変わらず、純真無垢な少年のように、
くったくのない笑顔で、私を迎え入れてくださった。


あの日あなたがあのチヌを掬ってくれなければ、これほどまでに釣りに、
はまっていなかったかもしれません。

色々と釣り方を教えて頂かなかったら、今こうして私を癒してくれている、
唯一無二の趣味を、途中であきらめていたかもしれません。


Nさん、これからもずっとずっとこの波止の名人でいてください。

人生に少しだけ疲れたときには、また遊びに来ます。



釣りがもたらしてくれた、不思議な出会いに、ただ、感謝あるのみ。