9月23日 伝説の早技!


自然を相手にする釣り人の、永遠のジレンマ。
それは、催し物が催してきた時にどう処理するかである。

小さい方ならまだいいが、大きい方には困りもの。
テトラや、物陰がある釣り場ならいいが、周囲に何もない、切れ波止なんかでは
大変だ。
真っ平らな、見通しの良い切れ波止で、しかもそこには人がたくさんいて隠れ
場所はない。
もしも、そんなシチュエーションにさらされてしまったら・・・。

今日は、考えただけでも背筋が凍りそうな、そんなお話だ。


9月23日土曜日、午前6時。
2番船で一文字に上がる私がいる。
今週は、私、贅沢なことに今日、明日と釣りに行ける。
明日24日は、新たなベイトリール、「カルカッタ」を試しにイカダに上がる。

その前に今日は、思いっきり棒浮きのシモリを堪能しておこうといった魂胆だ。
当初は永田名人も来る予定だったのだが、明日の野波瀬イカダでの本番に
備え、本日は休養を取るとのこと。

今日は会長と2人での釣行となった。
先週の台風の後で、少し食いが渋くなったとの船長の話を実感しながらも、
なんとか2枚ずつあげていた午前八時。
その時は突然にやってきた・・・

「ピキーン」

北斗の拳のケンシロウに、秘孔を突かれたかのような衝撃は、前触れもなく
訪れた。

「はうっ」 

思わず苦悶の声が漏れ、顔が歪む。
やばい。恐れていたことが、ついに現実の物となった。

船が来るまで我慢するか?
時計を見つめ考える。
今日は11時までの釣行予定で、今は8時過ぎ。
あと、3時間もある。  

とても・・・    持たない。

とりあえず会長に報告を行う。

私「かいちょー、ピンチであります。」

会長「どうした?」

私「奴がやってきました。しきりにトントンとノックを繰り返しております。」

会長「そうか。俺には・・・  がんばれとしか言いようがない。」
そう言って、何故かポケットから携帯電話を取り出した。

私は、ぐるり周りを見渡しながら、どうしたものかと考える。
ここの一文字には、フカセ釣り師はもちろんのこと、落とし込みのヘチ師も
たくさんいて、絶えず波止中を歩いている。
監視の目は厳しく、隙はない。

そして何より、会長が携帯カメラ片手に、決定的瞬間を激写しようと待ち
かまえている。取り出した携帯電話は、そのためですか・・・

行くか行かまいか。
しかし・・・     もう駄目だ。
仕方ない。奥の手を出すか・・・

会長が仕掛けを回収している、一瞬の隙をついて、走り出す私。
そして、目にも止まらぬ早さで必殺技を繰り出し、会長の元へと戻る。


会長「さすがの副会長も、今回ばかりはためらっているようですな。」

私「終わったよ。」

会長「終わったって、いつ?」

私「今。 すげーやろ?」

会長「嘘じゃ!」

私「嘘じゃないっちゃ。 ほんとに終わった。
  早かったじゃろ?」

会長「早かったも何も、そんなバカな。
    早すぎるやん。
    
    そんな早技を繰り出せるとは・・・
    あなた様はまさか伝説の・・・
    
    

    
早グソのおタコ?  」



私「ふむ。正体がばれてしまっては仕方ない。
  いかにも私が早ぐそのおタコである。
  頭が高い。控えー!」

会長「ははーっ」


回想へと入る。

あれは、小学校低学年の頃。
学校でう○こをしたら、ある意味ヒーローだった。

わーい、タコがう○こしてたー。きたねー!あっちいけ!  みたいな。

おそらく全国津々浦々、どこの小学校でもそうだと思うのだが、
今考えると、まったくもってくだらない。

仮に今、私が当時に戻れるとするならば、
授業中であろうが何であろうがおかまいなしに、天高く手をかざし、
「先生、う○こに行ってきます」と、胸を張って言える。

しかし、当時は繊細で、ガラスのように透き通るようなチキンハートの
持ち主だった私は、極力学校でのう○こは避けた。
我慢できるときは我慢した。
けれど・・・、我慢しても我慢できないとき。
そんなときに編み出したのがこの技だ。

トイレの前に立つと、まずは周囲を見渡し、人が居ないことを確認する。
次にその場で軽くきばって、彼を暗いトンネルから出口へと導く。
周囲に動揺を悟られぬよう、なるべく心を落ち着かせ、
再度人が居ないことを確認した後は、
おもむろにドアを開け、そっからはBダッシュ!

個室に駆け込むや、間髪入れずに左手でズボンを下げ、それと同時に
空いた右手で紙を手にする。
一瞬きばったと思う間もなく、右手の紙で拭いている。
左手でズボンを上げると同時に、右手でハンドルをひねり水を流し、
何事もなくトイレを出て、ネクタイでも直すかのような仕草をすればミッションは
完了だ。

一連の作業を冷静にこなす様は、まさにスナイパー。
例えるならば、ゴルゴ13。
山陽小野田のデューク東郷といったところか。


その間、わずか十数秒。
しかし、この伝説の早技も、高学年になると使わなくなった。

精神的にたくましくなった私は、高学年になると、むしろ堂々と毎朝学校で用を
足すようになったからだ。

闇に葬り去られ、忘れかけていた巧みの技が、20数年の悠久の時を経て、
今ここに蘇る。


ちなみに本日繰り出した技は、小学校時代の物を、少し発展させた
技なのであるが、詳しいことを書くと、私のファンであるナウなヤングレディー
達がドン引きしてしまいそうなので、あえて詳細は伏せさせて頂きたいと思う。



私「正体がバレてしまったからには仕方ない。
  会長にも、この伝説の早技を伝授してあげよう。
  困ったときには使うといい。」



会長「いや、別にいいです。」



さて、肝心な本日の釣りであるが、全体的に渋い中、なんとか私が4枚。

私の見ていないところで、こっそり副会釣法を繰り出した会長は、40cmを
筆頭に同じく4枚あげた。
副会釣法の使用料、10万円でいいからね。  一応、知的財産だから。


んで、更にはその40cmのチヌを彼女にプレゼントするらしい。
聞けば、関係は、かなりいい感じとのこと。

先週私が会長に献上したチヌが2人の関係を取り持ったらしい。
その幸運をもたらすチヌ代も、同じく10万円でいいからね。


なんか、朝からおかしいと思っていた。
しきりにメールをポチポチやったり、
撒き餌を打ちながら、

「人生って素晴らしい。アンビリーバブル」とか、

わけのわかんない事を言っていたのは、そういう裏があったんですね。


いや、でもほんと、今度こそはうまくいくといいね。

我々3人の付き合いは、かれこれ20年以上にもなる。
会長に至っては、保育園の頃からの付き合いだ。

我々は、幼少の頃から苦楽を共にしてきた。
青春時代には、共に笑い、共に泣いた。

そんな関係だからこそ、会長の一連のいきさつ、過程、今に至るまでは、
誰よりも熟知している。

様々な辛い過去を乗り越えて、今彼は、前へ前へと進もうとしている。

今こそ、今までで一番大きな声で、会長の事を応援してあげたい。




「会長、  がんばれぷー!」




いやらしいメールを打っている
会長!
会長の、旗付き棒浮き!
40cmのチヌを手に、
決めのポーズ!

う〜ん、かっこいい!
2人で、合計8枚!