3月26日 鱗海スペシャルアートレータ
朝、目が覚めると、確かに体の調子がおかしかった。喉や関節が異様に痛いし、何より体が熱っぽい。
一応体温計にて体温を計ってみると、37度1分。微熱。
これはまだまだ上がるかもしれないなとは思ったが、今日は夕方に大事な仕事を抱えていたので
休むに休めない。
出社を嫌がる体に鞭打って車に乗り、何とか午前中を乗り切るも、ほとんど喉を通らない昼ごはんを
何とか3分の1程食べ終えた頃から体調は急変。
吐き気に加え、頭痛やめまい、下痢、寒気。こりゃ尋常じゃないと再び熱を計ると38度5分。
めちゃめちゃ帰りたい衝動に駆られながらも、仕事が終わるまで帰るに帰れないので、1時間ほど有給を
もらい、近くの病院へ。何かを口にすると猛烈な吐き気を催し、水分補給すらままならないので仕方なく
点滴を打ってもらう。
「点滴したから体調は回復してる。回復してる。」と、自分に暗示をかけ、何とか夕方の大事な
仕事を終える。
処方してもらった薬を飲んでるとは言え、相変わらず体温は38度を超えていたので、終業時刻の
5時になったと同時に、これからサービスと言う名の残業タイムに突入するみんなに恐縮しながら
タイムカードを打刻。
それからの後の事は・・・
高熱で朦朧とした意識の中で私が見た、夢か幻だったのかもしれない。
5時の終業と同時にタイムカードを押した後、何故か向かった先は釣具店?
少しの時間でも、意味なく釣具店をブラブラすることが好きな私のこと、
「今日は、時間が一杯あるじゃん!」と言った、潜在的な意識がそうさせたのかもしれない。
釣具店に到着すると、ショーケースの中にはこれまた売り出されたばかりのシマノのチヌ竿、
「鱗海スペシャルアートレータ」が・・・
こんな高い竿買えるわけないし、別に買うつもりも全く無かったんだけど何気に手に取って
見てみると、これがなんだかとってもいい感じ。竿全体からは、真っ赤な魅惑のオーラが放出
されている。
私は、その竿が放つ妖艶な、光の催眠術にでもかかってしまっていた?
ただひたすらに、ただひたすらに車をセブンイレブンへと走らせていた。
何の迷いも無くセブン銀行ATMの前に立ち、無言で先日振り込まれたばかりのお給料を・・・。
朦朧とする意識の中で暴走を始めた自分の中の欲望が、もはや理性という名の抑制能力では
セーブできなくなっていたのかもしれない。
再び釣具店に戻った私、気が付けばアートレータを手にカウンターへ・・・
「な、何をやってるんだ!やめるんだ!
そのお金、我が家の何か月分の生活費だと思ってるんだ?」
私の中に住む天使が、最後の防衛ラインで私の暴走を食い止めようとしていた。
しかし私の中に潜む悪魔は、耳元でこうささやいていた。
「そんなの関係ねぇ!」
もはや暴走特急と化した私の欲望が、その小さな小さな天使の助言など聞き入れるはずもなく、
私は悪魔に魂を売った。
パンドラの箱が今、開け放たれた。
記憶の糸はそこで途切れていた。
それはとてもリアルで、もっとも現実味を帯びた夢だったのかもしれない。
千夜一夜の、アラビアンナイト。
翌朝、いつもの目覚ましの音でいつものように目が覚める。
昨日の薬が効いたのか、不思議と体に虚脱感はない。
体調は戻り、むしろいつもよりもすっきりとした朝を迎えた。
変わらない日常の、変わらない始まりのはずだった。
そしていつものように朝食のためキッチンへ向かうと、何故かそこには鬼のような形相で
私を睨み立ちはだかる、奥方様の姿が・・・。
ただ、鬼が手にしているのは金棒ではなく鱗海スペシャルアートレータと書かれた何やら赤い棒。
「夢だけど夢じゃなかった。 夢だけど夢じゃなかった。」と、
隣のトトロの中の、さつきとメイの名セリフが頭をよぎる・・・。
「た、大変なことをしてしまった・・・」とオロオロしている私に、間髪入れずに質問を
投げかけてくる嫁。
嫁「こんな高い買い物して、どこにそんなお金がある訳?」
私「え? いや、その、多分、通帳の中、かな? ほら、昨日給料日やったし・・・」
じっとこちらを見据え、口を真一文字に結んだまま微動だにしないあなた様のそのお姿、
そういえば以前、どこかで拝見させて頂いたような・・・
フラッシュバックしたその光景を、過去の記憶という名の引き出しから探し出してみると、
「あ、思い出した。」
前に行った、大分別府温泉の地獄めぐりの中じゃ・・・。
嫁「で、これからどうするつもり?」
私「え、えーと、もちろん返済させていただきます。
お小遣いの中からコツコツと、3年ローン位で良いですかね?
ぬぉー、またやっちまった・・・。 いくら思考回路が正常じゃなかったとはいえ、 さすがに自己嫌悪・・・。 もう暫く、用も無いのに釣具屋には行きません。 餌買いに行ったとしても、ショーケースの前には決して近寄りません。 見ると欲しくなっちゃうから。 マジで今回ばかりは、あ〜、下手こいた〜・・・ |