第8話 バカ波がっ・・・



9月16日土曜現在、山口県地方には大きな台風13号が接近している。
私には、台風が来るたびに思い出す、忘れられない過去がある。

大学時代の話。

今でも大概バカだが、あの頃はもっとバカだった・・・。


高校時代、私は女子にモテたいばかりに、バンドを始めた。
ギター、ベース、ドラムと、楽器は何でもこなし、
ブルーハーツ、ジギー、Xjapan等のコピーで、度々学園祭に出場した。
だがしかし、    

一度たりとも女子にモテたことは無かった・・・。

バンドはやるだけでモテると勘違いしていたが、バンドをやろうがやるまいが、
要は、ビジュアルが大事と気づき、大学進学と同時に音楽の世界からは
遠ざかった。

何事も、見た目が大事か・・・。

ってことで、当時流行っていたガングロを目指し、サーフィンを始めた。
理由は言わずもがな、女子にモテたいからだ。

サーフィンやって、黒くなってりゃモテるでしょ! ってな具合だ。

丁度、大学時代の友人の一人が、サーフィンのメッカ宮崎出身で、
バリバリのサーファーだった。

夏は、授業そっちのけで、毎日のように海に出かけては波を追いかけていた。
そして・・・、水着の女子を追っかけていた・・・。

そこそこ波にも乗れるようになって来た頃、友人よりジャスティスのロングボードを
譲り受けた。

一気にサーフィン熱は加速!


しかしながら、福岡県の海岸には、そうそうデカい波はやって来ない。

普段は穏やかな海に、大きな波が立つとき。

そう。それは・・・     台風が近づいて来てる時だ。


台風が近づいてるときに、サーファーによる海難事故が起こるのは、
そのためだ。


その日私は、台風が近づき、程よい波が立っている海にいた。

結構荒れてきた海に入り、波を待ってるときに事故は起こった。

予想外のバカ波で、波にあおられるかのようにボードがひっくり返り、板が頭を
直撃した。

一瞬であるが気を失う。
はっと我に返ると、頭がガンガンに痛い。

しかも、頭はぱっくり割れて出血しており、体は思うように動かない。

そうこうしている間にも板に必死でしがみついている私は、高い波にあおられながら
どんどん沖へと流されていく。
かといって岸に戻ろうにも、板をかかえたままでは戻れそうにない。


「このままじゃ、   やべー・・・」

直感的にそう感じた私は、意を決して、ライフラインである板から手を離し、
動かない体を無理矢理動かし、岸へと泳ぎ始める。

「生きて戻らなきゃ・・・」 という思いだけで。

映画 「タイタニック」 に例えるならば、ケイト・ウィンスレット演じるローズが、
凍えるように冷たい海で、薄れていく意識の中、命がけで笛を吹いたのと
同じような感覚だ。
    


意識を朦朧とさせながら、何とか岸にたどり着く。
以来一度も波には乗っていない。


サーフィンを始めたきっかけが、
「女子にモテたいから。」 という不純な動機のために、命まではかけられない。


何より・・・     

「思ったよりモテなかった・・・」    
ってのが一番の理由だ。  

荒れた海には、女子もいないし。


ってことで、今度は、命の危険はあまりなく、
女子比率もサーフィンに比べると圧倒的に高い、ウインタースポーツの決定版、
スノーボードへとはまっていくのであった。


「キャッ」 と言いながらずっこけて動けない女子の元へ、颯爽と滑り降りてきて、

「大丈夫?」  と、手を差し伸べる。

うん。考えただけでもめっちゃモテそうだ。


                                            2006.09.17