第15話 自分をアホやなぁと思う瞬間
時々、俺ってアホやなぁ・・・ と、思う時がある。
あれは、1年半ほど前の、2005年の夏。
ビギナーズラックでチヌが釣れ始め、俺ってすげーんじゃねぇ?と、
勘違いをしていた頃のことだ。
この近郊の、どこでよくチヌが釣れているのか。
フットワーク軽く釣り場を模索していた。
色々と調べ、防府で、とある良さ気なポイントを発見。
山の奥深くへ入って、1.5キロほど行き、一山超えると神社がある。
その神社の敷地内?の磯チックな場所が、立岩稲荷神社前というポイントだ。
行き方としては、山の中腹までは車で行くことができるのであるが、
そこからは軽自動車1台が通れるか通れないかの細い山道が続く。
加えて、アップダウンが激しく、山から流れ出る山水で、ぬかるんだ場所も
何箇所かある。
軽の四駆か原付、もしくは歩いてじゃないと行くのは難しい。
家に四駆の軽トラはあるが、道のすぐ側は崖になっているところが多々あり、
ぬかるみにはまって立往生ならまだしも、スリップして崖から転落でもしたら
しゃれにならない。
更には、稲荷神社へと続く山道の至る所にお地蔵様の像があって、
車で倒してしまった日には申し訳が立たない。
私は結構信心深い。
以上の理由から、私は一人、徒歩で行くことを決断した。
釣行前日に下見がてら、道具を持たずに釣り場へ行ってみる。
噂には聞いていたが、すごく良さ気。
明日の釣りに備え、逸る気持ちが抑えられない。
言うならば、遠足前日の小学生か。
今でもそうであるが、そんな時私は、意味なく釣り道具を触ってみたり、
撒き餌を練り練りしてみたりする。
この時もそう。
とりあえず撒き餌でも練っときますか。
、
折角歩いてまで釣りに行くのだから、途中で切らしてしまわないようにと、
大量に買い込んだ撒き餌にオキアミを混ぜ、更には大量の水まで加えて、
現場では何もしなくても釣りをスタートできるよう、準備を始めたのであった。
水なんて、現場で海水汲みゃいいんだけどね・・・
んで、そのもっともな事に気付いたのは当日の山越えの途中。
灼熱の日差しの下、大量のペットボトルが入った重たいクーラーと、
必要以上に重たいバッカンに、「なんでお前らはこんなに重たいんだよ!」と、
突っ込みを入れた瞬間に気付いた。
「あ、そういや俺、撒き餌にご丁寧に水まで入れて、わざわざ重たくして
来たじゃん・・・」
てな感じで気付いた。
当たり前の事に気付いてしまい、どっぷりと疲労感は増し、釣り場に着いたのは
歩き始めてから1時間後。
たかだか1.、2キロの道中を重たい荷物抱えて、何回休憩したことか。
「俺ってアホやなぁ・・・」 とか言って、自己嫌悪に陥りながら釣りをする。
いやいや、そんな私の「おっちょこちょいな所が可愛いのよ。」って言ってくれる女子も
世界中探せばきっといるはずだ。いや、いて欲しい。
そんな思いをして釣りをして、結局釣れたのはベラが1匹。
今でこそ色んなテレビとか見て、撒き餌ワークでの餌取りの交わし方も一応知ってる
つもりだし、適当にダゴチンして餌取りを交わせばいいんだが、
当時は釣りの「つ」の字も知らない若造。
きっちりと餌取りがライズしているド真ん中に付け餌を投げ、更に駄目押しで撒き餌を
かぶせる。チヌの棚まで餌が届かないんだから、チヌなど釣れるわけが無い。
きつい思いをして釣り場に辿り着き、ボーズを喰らい疲れも倍増する中、
当然今度は帰らなきゃならないわけで、既に筋肉痛の始まった足を引きずりながら
休憩しながらで、今度は1時間半もかかってしまう。
途中、草の中に埋もれるマムシの尻尾を踏んずけて、危うく命を落としかけた
だけでなく、追いかけてくるスズメバチの猛攻を道具類の全てを投げ捨てダッシュで
振り払い(ひと段落して回収に戻る時が一番のスリルだった。)、
更には大量に迫りくる巨大な薮蚊と、血で血を洗う戦いを繰り返しながらまさに
命からがら逃げ帰ったものだ。
やっとの思いで車に戻り、
「パトラッシュ、僕もう疲れたよ」 とか言いながら地面に倒れこむ。
「ふうっ」っと一息つくも間もなく、またも、「ブワァーン」という、物凄い羽音と共に、
上空から巨大なスズメバチが再来。
慌てて、「太陽に吠えろ」風に車に転がり込む。
窓越しには、スズメバチ数匹が車に入ろうと、モゾモゾやっている。
「バカヤロー、コノヤロー、スズメバチのくせしてコンチキショーのーベロベロバー!」
密封された車の中に入ればこっちのものだ。
ドアや窓が完全に閉まっていることを再度確認し、強気でスズメバチに罵声を
浴びせる。
30分位スズメバチを罵って、一通り満足した後、ようやく帰途に付く。
もちろん、「こんな所、2度と来るか!」と、捨てゼリフを残すことも忘れない。
家に帰って体重を計ると、なんと4キロも痩せていた。
とある夏の日の、せつない思ひ出だ。
2007.02.05