極寒の地に立つ桜の木は恋をしていた ――



 それは過去であり未来であり現代である今というどこかの時代のお話。


 桜の木は毎日、毎日その人を思っていました。
想いは深く「 好き 」と思うたび想いは葉っぱという形になり夏になる頃には桜の木自身が自分の
姿を見る事が出来ない程の緑に覆われるほどでした。
 しかし。
桜の木がいくら想っても想っても想いを伝えることは出来ません。
 何故なら桜の木が恋に落ちた相手はヤクモという名の人間だったからです。
桜の木と人間のヤクモでは使う言葉も保つ姿も違うので、どれほどヤクモの笑顔を見たいからと綺麗な花を咲かせても、花弁という言葉を懸命に降らせても、疲れた体を休めて欲しくて木陰を作っても決して桜の木がヤクモを好きだということは伝わらなかったのです。
 それに気付いた桜の木はとても悲しくて毎日、毎日泣くようになってしまいました。
桜の木が泣くたびに想いでできた葉っぱは真っ赤に焦がれた色となり落ちて桜の木の足元を覆い次第に桜の木を腐らすほどになっていきました。
 それを見ていた太極という神様が桜を哀れに思って声をかけました。
「 桜よ桜。お前の想いが私の呼ぶ冬に耐える事が出来たなら。桜よ、お前の想いは叶なうだろう。但し、忘れてはいけない。願うは一つ。祈るは一つ。想いは一つ。その為の冬を呼ぼう!! 」
 その言葉と共に厳しい厳しい冬がやって来ました。
 ・・・冬は、ただ一つの譲れない想いを、その覚悟を試される為にある季節だったのです。
 その覚悟を試すから冬はとても厳しいのです。
 とても厳しくて声を出すことも 目を開けることも 体を伸ばすことも何も出来ないので冬の中に入ると沢山の心が冷たくなっていくのでした。
 ところが桜の木はそんな冬の中でも真っ直ぐに変わることなく立ち続けておりました。
 何故なら桜の木の心には変わらないヤクモへの想いがあったからです。
 雪が降る時も 光のない凍てつく夜も そのとき そのときの心ぜんぶをヤクモに寄せるから決して桜の木は冬に捕らわれることはありませんでした。
 厳しくて 厳しくて 厳しい冬はあれもこれもと欲張ると立っていられず桜の木から多くのモノをもぎ取っていくけれど桜の木にとっては、それは一番じゃないから平気でした。
 桜の木には一つだけの大事な想いがあれば良かったのです。
 譲れない想い ――
 大事なものを守り通した桜の木は 極寒の中、堂々と一人 枝と幹だけになって立っていました。その姿はあまりにも美しく太極が心を打たれるほどでした。
太極は言いました。
「 自分の姿を見るがいい。何もない。今のお前には何もない。だが・・・お前の中の一番大事なものが胸の真ん中にある限り大丈夫なのだよ。堂々と歩いていくがいい。 」




 
そうして その人の たった一人になる為に春がやって来ました。

 弥生三月 ――

 桜の木はどこかという今の時代に柔らかな魂を持ったまま姿を変えたのです。

 太刀花 リク 誕生

祈るように 願うように ただ一つの想いを伝える為に ――