
――― 足元には雪の中から白い透明な花が顔を覗かせていた。
人々の記憶から忘れられて久しいと容易に想像できる朽ちかけの祠。その前にはリクとマサオミ、そして人外のモノ。
再封印 ――
簡単に終わるだろうとタカをくくっていた二人だったが予想だにしない反撃に苦戦を強いられていた。
「 本気でいくぞ! 」というマサオミの声にリクは符を思いっきり投げた。的は絶対に外さない。その意思と力は妖怪にも感じるものがあったのだろう、最後の足掻きとばかりにリクに向かって力を解放した。リクは妖怪を封印する事に全意識を集中する。符は高い音を発しながら空気を震わせる。
毒を含んだ液体をまき散らす妖怪。
封印の完成に近づく符の熱。
リク目がけて飛んできた液体。
無残に熔解した木々。
強烈な光に包まれ断末魔の声を張り上げる妖怪。
マサオミがリクを守ろうと符を投げる。
目の前に迫る物質を溶かす液体。
リクはそれらを避けようとしたが力の集中が間に合わない!
咄嗟に体の位置をずらそうとした。
視界に春の訪れを告げる節分草が咲いているのが見えた。
――― 駄目だ!
体は不自然な方向へ向いていた。世界はありえない回転をした。
「 マサオミさん!! 」
リクの悲鳴が白い世界に響き渡った。
「 マサオミさん!僕、大丈夫です!歩けます!歩きますから下ろしてください!! 」
山深い雪の中、リクはマサオミの背中の上で必死になって訴えた。
「 その足でどうやって歩くって?こーゆー時はお兄さんに甘えるもんだ 」
「 こんな雪の中、マサオミさんに申し訳ないです。このくらいの捻挫なら闘神符ですぐに・・・ 」
「 リ〜ク!! 」
普段は決してリクの言葉を遮る事はしないはずのマサオミが口を挿んだ。口調はおどけているようだが、その眼差しは背中越しのリクを真剣に捉えていた。
「 いつも言っているだろう?他の気力の使い方と違って闘神符を使っての”治癒”はしたら駄目だ。どんな小さな怪我や病気でも本来負うべきものを時間をかけて治さなければならないものを曲げてしまえば必ずしっぺ返しが来るもんだからな。絶対にしたら駄目だ。 」
「 ・・・はい。スミマセン・・・ 」
マサオミは自分の言葉に素直に謝るリクが微笑ましくいつものおどけた口調で見返した。
「 ”スミマセン”じゃなくて? 」
「 ・・・あ。ええぇっと・・・ありがとうございます。でも・・・重いでしょ? 」
一般的に言われる”おんぶ”という格好に、かなりの羞恥心を感じるのか顔を赤くしたまま遠慮がちに尋ねてくるリクにマサオミは即座に答えていた。
「 ぜ〜んぜん。反って背中があったかくていい 」
本心からの言葉だった。その言葉に更に顔を赤くしたリクの発する意味不明の声と重なるようにマサオミの耳には恩人の声が聞こえていた。
――― 抱きしめると腕の中にすっぽりと納まって、抱き上げるとくすぐったそうに笑うのです・・・今はきっと。
抱き上げることなんて叶わないくらい大きくなっているはず・・・
――― はいショウシ様。
マサオミは背中越しに伝わるリクの体温を感じながら恩人に答えていた。
――― あなたの息子は大きくなりましたよ。
背中に感じるリクの重さはマサオミの心をどこまでも温かくしていた。