マサオミの秘事

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「・・・遅いな。」
マサオミは腕時計で時間を確認しながら呟いた。
観光地だけあって普段から人で賑わう京都駅だが週末とあって更にごった返していた。音にならないざわめきの中、目を凝らして見るが目当ての人物の姿はない。
 もう何度も来ている京都だ。今更、道に迷う事はないと思うのだが・・・。何かあったのだろうか。やはり自分が迎えに行って、こいつと合流すれば良かった。
要らぬ心配をし始めたマサオミは隣に立つヤクモを盗み見た。元来のんびりとした性格だが決して約束に遅れるような、いい加減なところのないリクが待ち合わせの時間になっても来ないというのにヤクモは涼しい顔で行きかう人々を眺めていた。普段は過保護過ぎだろ!っと突っ込みを入れたくなる程なのに。
 何なんだよ、こいつ。心配じゃないのかよ。
何となくムカついた。
「どこにいても、すぐに見つけられますよ。」
リクの声が甦る。首をやや竦めて確信をもってマサオミに告げる声。はにかんだ顔はほんのりと赤くなっていた。
「どんな場所でも、どんなに人がいてもヤクモさんならすぐに見つけられます。発する気が違いますから。マサオミさんだってわかるでしょ?」
「まぁそうだけどさ。」
マサオミは言葉を濁した。確かにそれくらいは出来る。特にヤクモのような五月蝿い気を探すのはわけない。わけないが、判るのではなく出来るのである。
 自分とリクとでは気の見方が違う気がする。マサオミは気を読む際、意識的にスイッチを切り替えている。そうしないとピントがぼやけた写真のようになるのだ。だが、リクはあくまでも自然だ。視界に自然に映るモノを見るように人の気力を読んでいるようだ。マサオミクラスの人間でさえ気力を読むという作業をしなくてはいけないのにそんな事を簡単にされたら・・・
 聞いたのが俺だけで良かった。じゃなきゃ嫉妬の対象になるな、完全に。
・・・まぁ相手がヤクモだからかもしれないけどさ。
自分にだけ感じれるヤクモを見つめて嬉しそうに笑うリク。
「ヤクモさんの気は強くて。揺るがずに真っ直ぐなんです。誰にも濁す事が出来ないくらいに眩しいからすぐに見つけられます。」
そこまで思える感情が羨ましかった。そこまで思われているヤクモに渇を入れたくなった。その時リクの後に見えた空は高く、青く澄んでいた。

 

 今、一緒にいるのがリクならば難なくヤクモを探してくれて、こんな気分で待たないですむのに。遊びでも今更、誰かを待つのは・・・もう嫌だ。
「おい、ヤクモ。リクに連絡取れよ。何かあったのかも。」
案外リクに対して心配性のマサオミが反応を見せないヤクモをねめつける。
「連絡入れようにもリクは携帯持ってないぞ?心配しなくてもすぐに来るから。」
あくまで冷静で断定的な言い方にマサオミはカチンときた。
「はぁ〜?なんでわかるんだよ!確かに伝説様なら気力探るくらいは容易い事かもしれないけどさ。ここまで探す範囲が広いと無理だろうが!」
あぁ、そんなことか。と小さく呟いたヤクモは、
「いや、わかるけど。」
と当たり前のように言った。マサオミは、
「へ?」と間抜けな顔になった。ヤクモはマサオミに向けていた眼差しを確実に右前方へ移動させた。
「リクは綺麗だからな。」
自然と言葉になっていた。
「は?・・・まぁ、な。男にしちゃー可愛い顔だよなぁ・・・」
無意識にヤクモのペースに乗せられていたマサオミはどうして今、顔の作りの話なんだろうか?という疑問で一杯になった。マサオミの解釈にキョトンとした顔になったヤクモは、
「あぁ、違う違う、そうじゃない。」
と一旦言葉を止めた。
「・・・顔が綺麗だとか、そういうのじゃなくて身に纏う空気が綺麗なんだ。」
ヤクモの顔は誇らし気になっていた。
「凛とした気はどこまでも透明で、リクがいる所だけが突き抜けるように澄んでいるからすぐに判る。」
思考が完全にノックアウトされた気分だ。多分、自分はさっきから間抜けな顔ばかりになっている気がしっかりとする。
 こいつら恥ずかしい・・・。
お互いに絶対無自覚だろううが、自覚がないからこそ手の付けようがない。独り身の俺に見せ付けたいのか?!
二人のお互いを思う想いに中てられて、ガックリと頭を垂れるマサオミの耳にヤクモの弾む声が降ってきた。
「リク!こっち!」
愛おしい者を肉眼で捕らえたヤクモが気持ちそのままに手を上げた。
 二人が同じ事を感じて、同じ事を言っていた事実を教えて、からかってやろうと思っていたマサオミだが、馬鹿馬鹿しくなって止めた。途中色々あるだろうが、ここまでお互い馬鹿なんだ。放置していても勝手にまとまるだろう。っていうか、そこまでしてやる気にもなれない。
 この馬鹿ップル。
ここまで中てられたんだ。このくらいの意趣返しはさせてもらおう。やってろよ、お二人さん。
絶対、教えてやらないからな。
マサオミの視界に手を上げながら小走りに駆けつけるリクの笑顔が見えた。

 





                         終わり