「花、ほころぶ」
せっかくここまで隠し通してきたのに。
なんであの人は、そんなにも易々と見抜いてしまうのだろう。
でも、もう引き返せない。私には使命があるのだから。
呂布を倒した後、劉備は曹操と共に許昌へ入った。
本来なら、劉備は徐州牧として彼の地に残るはずなのだろうが、呂布に追われたとき、
助けを求めた曹操は劉備を客将として招き入れていたからだ。
助けてもらった手前、彼の申し出を断ることも出来ず、劉備は義弟たちを連れて曹操陣営に加わることになった。
歓迎の宴の後、退室した劉備を曹操が呼び止めた。
あまり酒が強いわけでもないが、勧められるままに飲んでしまった劉備は千鳥足同然で、
早くこの場から立ち去りたくて仕方がない。
それなのに、曹操に声をかけられたとあっては無視することもできず、ゆっくりと振り返った。
「大丈夫か、玄徳。奴ら、よってたかっておまえにばかり酌をするから。断っても良かったんだぞ?」
「いいえ……孟徳殿」
劉備は眠気がわき上がるのを堪えながら、口を開く。
「私は、あなた方のおかげで助かったのです。このくらいは当然ですよ」
無表情になりつつある顔を叱咤して笑顔を作って礼をすると、劉備はふたたび歩き出そうとした。
心なしか頭痛がしてきて、視界が揺らいでいるように思える。
前に踏み出した足は、まるで泥の中を歩いているように不安定だ。
劉備が危険だと思った瞬間、景色が斜めに傾いていく。
衝撃を予想して身を固くした劉備だったが、その身に訪れたのはがっしりとした腕の感覚だった。
「だから言っただろう! あれほど……」
助けてくれた曹操が叫ぶが、彼の声は途中で止まってしまう。
劉備に触れている腕が、なにかを確かめるかのように時折強く抱きしめてくる。
「なんだか変だ。この感覚は……」
劉備の頭の中に非常を知らせる鐘が鳴る。
驚きからか混乱からか身動きしない曹操の隙をついて、劉備はさっと彼の腕から抜け出た。
「いろいろ助けていただき、ありがとうございました。今日は、お暇させて頂きます」
先ほどの衝撃で、酔いは嘘のように飛んでいってしまったようだ。
劉備は丁寧に礼をすると、普段通りの足取りで邸宅への道を急いだ。
邸宅に帰った劉備を迎えてくれたのは、留守を言いつけられていた義弟たちだった。
ふらふらと歩み寄る劉備にあわてふためいた張飛が、すぐさま劉備を抱き留める。
「だから言ったろう? 無理はするなって!」
「ごめん。翼徳……」
心配の余り叱りとばしてくる張飛に、劉備は苦笑するしかできなかった。
間髪入れず、今度は関羽が声を荒げる。
「まったく、翼徳の言うとおりですよ。なぜ、私たちに一声かけてくださらなかったんですか」
「いや、だって、孟徳殿から必死に言い寄られたから、断るのは忍びなくなって」
「兄者はいい人過ぎます。なんで危険な孟徳殿に気を許すのですか? 彼は女好きだと聞いていますよ」
関羽の言葉に、劉備は肩を震わせた。
「いいですか、兄者。なにかあってからでは遅いのですぞ?」
「……はい。ごめんなさい」
劉備は弱々しい声ながらも、関羽にそう答えた。
そうだった。彼は危険人物だったではないか。
関羽や張飛に幾度なく注意され、彼に近づくときはつねに気を張っているようにと言われていたのに。
ふいに、劉備の頭の中に、廊下でのことが蘇った。
曹操は間違いなく不思議に思っただろう。
酔っていたから前後はあまり思い出せないが、あの瞬間だけは忘れられなくなってしまった。
がっちりとした腕が、自分の身体に絡められた。関羽や張飛とは違う、しなやかでいて力強い腕。
「兄者」
劉備の回想は、関羽の声によって停止した。
「寝台は整えてありますので、今夜はごゆっくり休まれて下さい」
関羽の気遣いがありがたく思えて、劉備はいたたまれなくなってくる。
わき上がる感情を抑えながら礼を言うと、劉備は張飛に支えられながら寝室へと向かった。
寝室に入った劉備は、張飛を下がらせて夜着に着替える。
着物を脱ぐと、胸にはさらしが何重にも巻かれている。
男性にしては腰回りがほっそりとしており、心なしか腕や足が華奢な感じがある。
劉備はおもむろにさらしに手をやり、それをほどいた。
すると、押さえられていたであろうものが存在感を顕わにする。
その後、すぐさま夜着をまとって、劉備は寝台の中に入った。
寝台の中で瞳を閉じると、まぶたの裏に曹操の顔が浮かぶ。
彼の表情は、あの時そのままに、困惑を湛えている。
劉備は焦るように瞳を開いた。なぜか、鼓動が早くなっている気がする。
恋……なわけ、ない。これが恋であって、たまるか。
ふいに浮かんだ考えを、劉備は必死で否定した。
そうだ。ただ、義弟たち以外の男に身体を触られたから動揺してるだけ。絶対にそう。間違いない。
「本当に、違うんだから!」
声に出してそう言ったあと、劉備は再び瞳を閉じた。
「……玄徳。おい、玄徳」
誰かが私を呼んでいる。
劉備は無我夢中で声の主を捜した。
まるで雲の中のような空間は、方向感覚を狂わせ続けたが、なぜか声の方向だけは見失わなかった。
歩いていたはずが、いつのまにか走り出していたころ、声はさらに強さを増した。
「玄徳! やっとみつけた」
そう聞こえるやいなや、誰かが目の前に躍り出て劉備をきつく抱きしめる。
顔を見ようにも、相手の胸に阻まれてまったくわからない。
と、ふいに抱きしめていた腕の力が抜けた。
劉備は今しかないと、相手から離れようと試みたのだが、すぐさま顎を捕らえられる。
はっとした瞬間、唇に暖かい感触が降ってきた。
さらに、驚きのあまり身動きがとれない劉備をあざ笑うように、唇を開かれて口内をまさぐられる。
やっ、だめ!
劉備は力を込めて相手の胸を押した。
なんとか距離を取ることが出来たが、このままではまた捕まってしまうかもしれないという恐怖が募る。
相手に背を向けようと周りを見た瞬間、尻餅を付いている相手と視線があった。
「なっ……孟徳……ど、の」
「なぜ俺を避けるんだ? なぜ、俺から逃げる?」
「あっ、あたりまえでしょう! 私たちは、男同士……」
「本当にそうなのかな」
曹操への抗議は、あっさりとかわされた。
しかも、彼は口の端に笑みを浮かべている。まるで、すべてを知っているかのように。
「男と女なら、問題はないのだろう? ならば……」
そのまま話が進めば核心に触れてくるような気がして、劉備は力一杯叫んだ。
「やめろー!」
寝台から起きあがり、劉備は肩で大きく息をした。
あたりを見回し、さきほどのことがすべて夢だったとわかると、安堵のため息をつく。
まだ朝にはなっていない。しかし、あまりの悪夢にもう一度寝ようという気は失せてしまった。
ふいに、首から流れた汗が胸の谷間へと流れる。
いつもならあまり意識しない胸だが、今は違う。たぶん、あの夢のせいだろう。
これまで、こんな事は一度もなかった。なぜ今、これほどまでに性別を意識してしまうのだろうか。
思考を巡らした途端、その原因らしいものにつきあたり、劉備は否定するかのように頭を振った。
そんなこと、あるわけない。
劉備は己の腕で自分を抱きしめると、ゆっくりと寝台に身を倒した。
瞳を閉じると瞼の裏に誰かが現れそうで、劉備は瞳を開いたまま夜が明けるのを待った。
日が昇り、辺りが明るくなると、劉備は身支度を整えるべく寝台から抜け出した。
夜着を脱ぎ、さらしを胸に巻く。胸の膨らみを隠すようにきつく施すそれは、劉備にとって一種の鎧でもあった。
軍の主となった以上、どうしても男と接触する機会が増える。
義弟たちは劉備の真の姿を知っており、恋ではなく敬愛を劉備に与えてくれる。
それゆえ、劉備は彼らを異性として特別意識しなくてもよかった。
しかし、他軍の主は違う。何度も戦を経験しているからか、妙に男臭く、ある種の緊張を劉備に強いる。
その中でも、曹操は特別だった。
出会った頃から、射抜くように見つめる曹操の瞳になにもかも見透かされてしまうのではないかと、緊張が解けない。
さらしを巻き終え、劉備は自分の胸に這う白い布を、確かめるように撫でた。
白い鎧に身を包んだ劉備は、この瞬間、女であることを封印する。
心の中に小さな棘が入り込もうとも、性別を偽り、苦しんでいる民を救う一人の男になるのだ。
劉備は自分の着物を棚から取り出すと、身支度を再開した。
出仕した劉備を、曹操はいつもどおりの笑顔で迎えてくれた。
挨拶を終えてすぐ、他愛もない話になる。劉備は心の底で安堵のため息を付いた。
曹操との関係上、一方的に出仕を拒むことは出来ない。
彼と顔を合わせたとき、どう対処しようと思案していた劉備は、自分から口を開きたくなかったからだ。
「今日は天気もいい。ちょっと散歩でもしないか?」
曹操の言葉に、劉備は快く了承した。
天下の丞相と、ただの客将が連れ立って歩くのは不釣り合いかもしれないが、いい気分転換になるのではないかと思った。
のんびり景色を眺めて歩けば、昨日のことは、夢も含めてすべて忘れられるだろう。
「さすがに城下では、まわりのやつらもうるさいだろうから、ここの中にある庭で勘弁してくれ」
少し申し訳なさそうに笑う曹操につられて、劉備も遠慮がちに「はい」と答えた。
曹操に案内されてやってきたのは、劉備が今まで足を踏み入れたことがない場所だった。
庭の中央には小さな池が設けられていて、紅色に塗られた橋が架かっている。
それを渡った先に、こぢんまりとした庵が見えた。
庵は、屋根が付いているだけの吹きさらしではなく、壁が設けられていて、寝起きできるように思えた。
劉備が庵に注目しているのがわかったのか、曹操は「ああ、あれか」と言って説明を始める。
「俺の、個人的な建物さ。ここを抜け出すとやつらがうるさいから、抜け出さずとも一人になれる場所を作ったんだ」
劉備は、曹操の顔を不思議そうに見つめる。
人と触れあうことが好きそうに見える孟徳殿にも、そんな一面があったのか。
声に出すことはなかったが、曹操はどこかでそれを感じたのだろう。小さく笑うと、口を開いた。
「これで一つ、俺のことがわかっただろう? 俺だって、普通の人だってことさ」
劉備は応えるように微笑すると、庭の景色を見ながら歩き出した。
池に住む鯉を眺め、橋の上から木々たちがつくり出す景色に見惚れていると、かすかだが遠雷の音が聞こえた。
瞬時に空を見上げる。
ここにやってきた時は快晴だったはずだが、いつのまにか雲が空を覆い尽くしていた。
「孟徳殿。そろそろ引き上げましょう」
空を気にして言ったのだが、曹操は眉根を寄せて言う。
「おまえまで、俺の自由を奪うのか? まだ、見せたいものがいっぱいあるんだ」
曹操は劉備の腕を引き、橋を渡って庵の側まで行く。
親に駄々をこねる子供のような曹操に、劉備は苦笑して彼の行動に従うことにした。
曹操は、庵の屋根に施されている文様やら、一番高いところにある鳳凰の彫刻を熱心に語った。
劉備はついついそれに惹きこまれてしまい、雨の滴が当たるまで空の異変に気づかなかった。
それは、一瞬だった。
小さな滴が当たったと思い、空を見上げた途端、豪雨が彼らを襲っていた。
「孟徳殿!」
「宮廷に帰るのは難しいな。とりあえず、庵に入ろう」
大きな雨粒に打たれながら、二人は逃げるように庵の中に入った。
庵の中は、書物の海だった。
扉を締めると中は薄暗くなり、ほとんど視界が効かなくなる。
「玄徳、こっちだ」
曹操が劉備の手を引き、腰を落ち着けられる場所まで導いてくれる。
曹操の合図で腰を下ろすと、目が薄闇に慣れてきたのか徐々に辺りが見えるようになってきた。
曹操が、心配そうにこちらをのぞき込んでいる。
「お互い、ひどく濡れてしまいましたね」
苦笑してそう言うと「ああ」という声が返ってきたが、会話が続くことはなかった。
劉備は、これからどうしようかと天井を見上げた。
雨音は強いままで、しばらくは止みそうにない。
寒い季節ではないのですぐに風邪を引く心配はないが、濡れた着物が肌に吸いつき、身体が重く感じられる。
着物を脱ぎたい。
劉備の中に、願望が生まれる。しかし、脱いでしまえばさらしが現れてしまう。
不自然きわまりない白い鎧が、曹操の目に触れてしまう。
劉備は着物を引っ張り、自分と濡れた布の間に空気を送り込む。
だが、手を放した途端に重くなった着物は劉備の身体にまとわりつき、不快感が拭えない。
劉備の動作を見ていたのか、曹操がやんわりと声を発した。
「どうした? なにか不都合でもあるか?」
「……いえ。着物が濡れてしまったので、どうにかならないかと思ったのですが」
嘘を付いても見抜かれるだろうと、劉備は曖昧な返答をした。
すると曹操は、おもむろに劉備に近寄ると、彼の身体に手を伸ばしてきた。
彼に触れられそうになった瞬間、劉備は反射的に後ずさってしまった。
湿った布と、床が擦れる音が庵内に響く。
「俺が脱がせてやるよ。じっとしていれば大丈夫だから」
逃げた劉備を咎めず、曹操は穏やかな声でそう言って、再び劉備に近づいた。
薄闇の中で、曹操の顔が迫ってくる。
自然と鼓動が高鳴り、彼の耳まで達しているのではないかという不安が募る。
後ろに手を付きもう一度逃れようとしたが、曹操のほうが一瞬早かった。
襟元を掴まれ、強い力で剥かれる。
劉備の上半身を覆っていた着物は除かれ、濡れそぼっているさらしが姿を現した。
水分を吸い込んでいるためか、劉備がひた隠しにしていたものの輪郭が、おぼろげに浮き上がっていた。
見られてしまった!
目の前に迫る異性に、秘密を暴かれた衝撃で、劉備は瞳を見開き肩をふるわせた。
英雄は色を好む。曹操とて、それは同じだろう。
劉備は、義弟たちの言葉を思い出しながら、軽率な自分の行動を恥じた。
そして、この時間が早く過ぎてしまうように祈った。
次の瞬間、曹操が劉備を抱きしめた。
彼の濡れた着物が肌に触れ、小さな声を上げた劉備に、曹操はさらに力強く劉備を包み込む。
「やはり、おまえは女だったか。そうじゃないかと思ったが、これまで隠し通してきたことを考えると、よほどの覚悟があるのだろうと思い、なかなか聞けなかったんだ」
劉備の細い腰に手を這わせて、彼は続ける。
「こんな華奢な身体で、よく頑張ってきたな。女の身では、いろいろ大変だっただろう。……だが、それももうお終いだ」
意味深な言葉に、されるがままだった劉備が身じろぎする。
「それは、どういう……」
「俺の女になれ。おまえの軍と我が軍が組めば、向かうところ敵なしだ。
無論、表向きには、今まで通り劉備として俺の横にいればいい。どうだ?」
密約と呼べる提案が飛び出て、劉備は目を白黒させた。
性別がわかった途端、てっきり慰み者とされ、劉備という存在が消されてしまうと思っていたからだ。
曹操はそれをも考慮に入れている。
すでに中原を支配し、帝をも要している曹操と手を組めば、たしかに誰にも負けないだろう。
だが、それで本当にいいのだろうか。
「少し、考えさせて……」
劉備が言葉を放ったのもつかの間、身を離した曹操に顎を掴まれ、彼の唇で封じられてしまう。
初めての接吻に、劉備は戸惑い、抗おうとしたが、曹操の巧みな手管に絡め取られてしまう。
口内を探られ、舌を絡められて、劉備の中に不思議な気持ちが生まれ始めた。
こんなの、知らない。……なんだ、これ。
頭の中で警鐘が鳴り続けているが、高鳴っている鼓動同様、納まってはくれない。
だめだ。こんなこと、だめ……。
強く瞳を閉じ、劉備は心の中で何度も叫んだ。
未知の衝撃に打ちのめされた劉備は、曹操の唇が自分のそれから離れても、しばらく動くことが出来なかった。
恋人たちがする行為を、劉備は知っている。だが、知識と経験は、また違うものだ。
劉備は、今まで感じたことのない気持ちが沸き上がっていることに、自分でも疑問を感じた。
いつも緊張を強いる曹操が、表現しがたい気持ちを抱かせるなんて、なにかの間違えではないかと思いたかった。
「……玄徳」
曹操の甘い声が響き、鋭い瞳に見つめられる。
ここから逃れることを許さない視線に、劉備は怯んだ。
「玄徳。考えるな。俺のものに……なれ」
曹操は柔らかな声で言うと、ゆっくりと顔を伏せて劉備に近づいた。
身動きがとれない劉備の首筋に、曹操は唇を這わせる。
身体を震わせた劉備を労るように、曹操はおだやかに肌の上を這う。
時に唇で優しく触れ、時に舌で癒すように舐める。
曹操の穏やかな愛撫に、劉備の頬は次第に上気していき、呼吸が徐々に荒くなっていく。
劉備は、身体の変化が怖くなってきていた。
自分が自分ではなくなりそうで、なんとかして曹操を止めようと両手で彼の身体を押した。
しかし、歴戦をくぐり抜けてきた猛者は、それほどのことでは動じない。
曹操は劉備の反抗を意に介さず、さらしの端に手を掛け、丁寧に解いていく。
胸の膨らみが解放され、二つの果実がこぼれ落ちる。
「あっ、だめ!」
劉備が叫び、とっさに胸をかばおうとしたが、曹操の動きの方が一瞬早かった。
彼の唇が胸の頂を捉え、もう一方の膨らみにごつごつした手が這わされる。
先端を吸われ、大きな手で揉みしだかれる。
「やっ……、やあぁ……」
得も言われぬものが背中を駆け抜け、身体中の力を奪っていく。
女であることを捨てた劉備に、曹操はそれを思い出させようとしているようで、優しいが執拗に愛撫を施していく。
劉備の頭はいつからかぼんやりとし始め、思考することも煩わしく感じるようになっていた。
身体は火照り、これまで意識していなかった下腹部の泉が、じわりじわりと湧きだしている。
曹操は劉備の着物を床に敷き、ゆっくりと彼女の身体を倒した。
閉じられた劉備の足を開かせ、曹操は太股に手を這わせる。
劉備は息が上がっており、かろうじて声を抑えている状態だ。
これからなにが起こるかを知ってはいても、熱に浮かされた劉備は拒むことができなくなっていた。
身体を駆けめぐるなにかが、解放を望んで暴れている。
太股を撫でていた曹操の手が、潤いをたたえた泉に到達した。
「あっ、あっ……んんっ」
滑りをまとった曹操の手が動くたび、劉備の身体は魚のように跳ねる。
曹操はじっくりと花弁を愛でた後、劉備の入り口に円を描くようにほぐしながら迫った。
幾度か辺りを巡ったあと、曹操の指が入り口に入り込む。
「いっ、あ……んっ……」
劉備は背を逸らせながらも、曹操の指を受け入れた。
劉備を気遣ってか、ゆっくりと曹操の指が入っていく。
探りを入れるようにおそるおそる壁を擦っていくものに、ある種の恐怖と妙な好奇心が芽生えていく。
私は、どうなってしまうのだろう。
今まで意識しなかった場所から生み出される劣情に、劉備は戸惑いを隠せない。
「……やぁ……、あぁぁ、だ、だめぇ……」
曹操の指が、劉備のそこを出入りし始める。
おだやかではあるが、壁を擦りながら抽出運動を繰り返すものに翻弄され、劉備は身をくねらせた。
もう、だめ……。
曹操の生み出す波に揺られながら、劉備はぼんやりとそう思い、思考を止めた。
翌日、劉備は出仕しなかった。
体調が優れないと言う理由だったが、本音はもっと別の場所にあった。
昨日の庵でのことが頭を離れず、曹操の顔を見れば間違いなく意識してしまう。
あの淫らな行為を、思い出してしまうからだ。
思わず、自分の腕で自分を抱きしめる。
今でも瞳を閉じると、曹操の手が身体を愛撫し、劉備を未知の世界に連れて行こうとしている気がするのだ。
「あっ……」
寝台の中で寝返りを打ち、沸き上がりそうになるものを誤魔化そうとする。
曹操によって目覚めてしまった性は、もう、隠すことができない。
このままでは、だめだ。
劉備は曹操から逃れようと考え始めている。自分を堕落させないために。
女であることを、意識しないために。
曹操は、劉備の女としての性を目覚めさせただけでなく、どこかにくすぶっていた恋という魔物も目覚めさせてしまったのだ。
これらから逃れるためには、彼から離れるしか方法がない。
私が、普通の女であれば……。
無理だとわかってはいても、劉備はそう思わずにはいられなかった。