通常のコースを離れて自由にさまよってみょう。
既存の登山道には四季を通じて何回も登り、登り尽くしてどうしようかと悩んでいる人や、今までとは違う登山をしてみようと思いかけた人や、もっと凄い景観を見たい、もっと自然を味わいたいという人のためのページです。
・道はありませんので自分の居る位置を正確に知る必要があります。したがって地図が読めることは必須条件です。このページ読んで事故が起きてもいっさいは薮山を実行した人の責任です。これらを注意していざ薮山へ。
・紹介されている既存の登山道だけが登路ではありません。営林署の監視道や地元地区の山道、あるいは獣道と様々にあるのです。
・谷筋を忠実に登っていく沢登りや岩をトレースするクライミングといった登り方もあります。ここでは二万五千分の一をもとに違うルートを登って見ることを主眼としています。こういった山の歩き方を「薮山登山」といいます。祖母・傾山を様々なルートから歩いてみると今まで見たこともないような光景を目にします。
山の魅力とは何か?なぜ山に行くか?まず山頂からの展望である。多くは360度の展望があるからこそ期待を持って山頂を目指すのであろう。さらに山の高さが高い程、広い視野が得られる。九州でもある程度高さがあって展望の効く山はそう多くはない。そのため、あまり遠くへ出掛けない人はすぐに登りつくしてしまう。だが山の魅力はそれだけではなく、何回も同じ山に行くのは千転万化する自然があるからである。でも、やがて登り尽くしてしまう。 そのため多くは遠い山にでかけていくことになる。当然遠ければ遠いほど山行きの回数は減って行く。
ところが何かを忘れていた。二万五千分の一の地図を広げると無数といっていいほどたくさんの山や谷がある。それらを登ってみると結構面白く、いける。実は我々の住んでいるごく近くの山が主題となった。ヒントは裏山にあった。ところがその多くが「未知」なる山。道なき未知の山歩きがこれから述べる薮山登山なのである。めったに入ることのない尾根を慎重に辿っていく、そこで様々な地形や自然の造形を発見する魅力が薮山にある。薮山といっても、いつも難渋するスズ竹や裏白をかき分ける訳ではない。できるだけブッシュ帯をさけて歩きやすい所を探します。登る前のそうしたルートを探すことが薮山登山の目標となる。
既存の登山道であれば黙っていても頂上へ導かれるが、これから述べようとする登山は自からの知識と判断が必要とになります。それだけに緊張感と期待が高まり、面白さが増す。祖母・傾山系でも既知の登山道から外れてみると、意外な発見することがある。まず尾根ルートを取ると、時に巨大な岸壁にぶつかることがあり、この岩をどのようにして突破しようかと考え、右へ左へ回り込んで登りやすいルンゼを探すことになります。谷づたいに登ると大滝やナメを発見して思わず立尽くす。こうした何が出てくるか分らない緊張感が薮山登山の魅力だ。つまり探検と発見が薮山登山の本義である。
ただこうした山登りは一般道よりも危険性は高くなる。まず道迷いは必然的である。だから自分がどこに居るか常に地図上で把握してなければなりません。またコースタイムも一般道よりさらなる余裕も必要だろう。とにかく何が出てくるかわからないので進退きわまる段階まで至る可能性もある。だから知識と経験や情報に注意を払い、自ら研究にいそしむことは常にたいせつである。
ここで使える道を紹介しよう。もちろん明瞭なはずがない。
尾根づたいに登る時は凹凸が少なくしかも急でない尾根を二万五千で探す。尾根はやや細い位のほうが歩き易い。広い尾根は下山時迷いやすく、標高が低い場合は裏白があって鎌がないと通過不可能となる。初めて登るときは往復するのが原則で、そうしないと、とんでもない所に降りてしまう危険性があります。
谷は技術的に難しさを伴う。沢登りと言われるように中級以上になるとへつり、滝登りが現れ、岩登りの素養が必要になります。最初は滝が現れると巻くしかないが、そうした技術をマスターすると面白くなる。九州では標高が1000mを越えるとスズ竹が現れて尾根道では猛烈なスズ竹との格闘となります。それを避ける一つの手段として谷を取るのもよいかも知れない。小さい谷の方がいい。谷を下山に使う時は特別な注意が必要で、確実に目的地に下山できるが高さのある滝や廊下が現れた時は巻道を探すか、それが不可能な場合、懸垂下降しなければならないので、ザイルは必ず持って行きます。
・地図 二万五千の一の地図をコピーして使う。私は150%に拡大してB5版で使用しいる。予備も必ず必要で、二枚持って行く。
・ただこうした地図も傾斜が45度より急になると精度が悪くなる。祖母山の東側はほとんど当てにならない。
・磁石 尾根を下る時は必要品。
・高度計 沢登りにはこれがあると正確に自分の位置がわかる。尾根にも使う。
この三つの道具は薮山登山の必需品である。三点セットという。
○鎌・カマ
スズ竹を掻分ける時必要。しかし必要最少限の使用に務めることは言うまでもない。
○鋸・ノコ
これも倒木や通過不可能な低木を切る程度で鎌以上に使用は限定する。
○剪定鋏・センテイハサミ
棘、小枝やスズ竹を切る時に使用する。
○細引き
ちょっとした岩場を下るときは発揮する。本格的に岩を登ったり、下ったりするときはザイル等登攀具が必要となります。
○防塵マスク
スズ竹の薮分ける時に使用。
沢登りには特別な道具が必要だが他書を見て戴くことにする。
○赤テープの張り方
猟師道や松茸道、林業の作業道に貼ってもそのままにしないで後で剥がなければなりません。それと薮道が一般登山道と交差するときは特に注意が必要で、一般の登山者が入り込まないよう10メートル手前で止めておくこと。
●使用可能な道
ここでは登山の目的に作られた登山道ではない。
・猟師道
もっとも使える道である。鉈目を利用すれば沢登りの終了で元に戻ることができるが、谷沿いが多いため、最近は荒れている。赤テープを付けると嫌われるので注意されたい。
・カモシカ道
獣道では一般には鹿道が使えそう。カモシカ道は岩場の弱点をうまく突いており、岩場突破に威力を発揮する。
・作業道
林業のための道であるため風景は良くない。こういう道もありがたく使わせていただくという気持ちが大切。
・地籍調査道
役場の地籍調査係が杭打ちしている。尾根についているので確実にふもとに降りられるが急登である。
●沢登りの下山路として
谷を終了すると通常は一般の縦走路や登山道を使用するが、入渓地点と登山口が離れていると車2台必要となる。そういうことを避けるため谷の右か左の尾根を冬の間にテープ付けしておくと、もし遡行不可能になったときにエスケープルートとして使えます。実は祖母傾ではこのれが多く、単なるエスケープルートとしてではなく立派な薮山登山道として申し分のないものがあります。土岩谷の下山路等。
薮山の基本は二万五千図から出発する。もう一度地図を眺めて見ると等高線が密に詰んだ所とまばらなところがあるが、われわれは密な所に目が集中します。そういう所は傾斜がきつく複雑な地形となているところが多い。実際に行って見ると痩せ尾根だったり、岩稜が林立したり、滝やゴルジュが現れたりします。こういう地形は傾斜が60度を超えると等高線では表されなくなり、崖の記号で表される。
バリ屋さんはこれを毛虫という。こういう崖の記号が多い所ほど興味を引く地形であります。ただ傾斜がきつい所ばかりに目が集中わけではない。そういう等高線が密な所とまばらな所が隣接したところにも注目する。というのは湿地帯の可能性があるわけです。また山頂部で低山の場合は照葉樹林が発達して広場となっていることがあります。こういうところは森のなかを自由に歩けることから開放感があります。では薮山登山のひろがりについて述べよう。
●特異地形
地図上でみると谷の川筋が不自然に屈曲したり、等高線が密な部分が直線上に連なったり、上記のように疎な部分が不自然にリンクした地形で、ここには圧倒するゴルジュが存在する場合が多い。
●関門地形
とくに等高線が密な部分が直線上に連なった所に渓流が強引につっ切ったところで大滝がある。沢登りではここを突破するという。祖母傾山系の南側の鹿納谷やその隣のおもおち谷、古祖母山の南側、南郡山地にはたくさんある。浸食が進むとゴルジュとなる。
●断層谷
ところが地図上では平凡な谷に見えても中にはいると複雑で見事な谷になっている場合がある。そこには隠れた断層が走っている場合がある。祖母傾では秋霧谷、成瀬谷が有名で断層地帯からわずかに離れたデケ山谷は平凡である。また南郡山地では場照り山がすばらしい。ここからは地質の知識は避けられない。
●花崗岩床谷
クライミングをする人達では特に注目される岩質である。堅く安定した岩から絶好のエリアになっているところが多く、比叡山はあまりにも有名。花崗岩というのは地下のマグマが岩盤を貫いて固まり、浸食で地表面に顕れたもので、花崗岩のナメは最高の沢登りを提供する。地質図では+で表されている。またその周辺は熱変成を受けて複雑な地形となる場合があり、特に石灰岩だと大理石になるので花崗岩谷は人気が高い。
●湿地帯
谷の最奧部にある傾斜が緩くなったところ。谷屋は特別な思いがあって大切にしている。ところが大変デリケートな自然であるため、迂闊に人が入らないように公言しないのが普通である。
●海蝕崖
薮山は山奥だけではない海もある。リアス海岸も対象としている。南郡山地の鶴見半島、米水津村、蒲江町、宮崎県の北浦町、延岡市ではよく発達している。風景はもちろん植生も見るべきものがある。
●島の山
一般には高い山に注目が集まるが島の山もすばらしい。屋形島(198m)、深島(98m)島浦島(185m)などの島の山から眺める海岸の風景も魅力的である。
●照葉樹林の広場
じっとして眺めるのではなく照葉樹の木が林立する中を歩けばよい。南郡山地の八州、バテリ山脈など自由に歩けばしだいに開放感に浸れる。明瞭な登山道がない方がよく、気ままに自分の納得いくところを歩くのが、たまらないと言う。低山逍遥のひとつである。
・地図を見る楽しさがある。さらに発展し地質に興味を持つ。
・見知らぬ、自分だけの山を発見。
・百名山とは正反対の方向である。
・究極の薮山は低山にある。海蝕崖の風景は忘れられない。
・つまり国木田独歩の世界に浸ることができる。山林に自由ありと。