●学術コラム:

H25.7.5
最近の糖尿病診療と保険上の留意点 

糖尿病は,日常診療において遭遇する機会が増えただけでなく,あらゆる領域の疾患群に少なからず関与していることは言うまでもない.今回の社会保険研究会では,京都糖尿病医会会長として指導的立場で活躍される和田成雄先生から,実地医家の視点で最近の糖尿病診療,保険上の留意点について概説していただいた.
全国には糖尿病の可能性が否定できない人を含めると2310万人(2007年)に達するが, 60-79歳で約60%を占め,糖尿病によって余命は10年ほど短くなるという.超高齢化社会を迎える我が国の近未来を思うと,看過できない数字である.治療の目標は,合併症の発症,進展の阻止により“健常な人と変わらない日常生活の質(QOL)の維持,寿命の確保“にある.それには血糖のみならず血圧、脂質、禁煙などの集約的な管理が必要であり、また食後血糖の是正と食前低血糖の防止という“良質な血糖コントロール”を目指すことが肝要である. この点,日内変動を評価できるCGM(持続血糖モニタリング)が普及すれば,有用なツールになりえるであろう.
経口血糖降下剤は,従来
HbA1c6.5%(JDS)以下でグリニド,αGI製剤,6.5%以上でSU剤が第一選択であったが,今回力点を置いて解説されたDPP4阻害薬の登場で,糖尿病治療は大きく変貌している.すなわちGLP-1の作用による,血糖値に依存したインスリン分泌促進やグルカゴン分泌抑制をはじめ,胃蠕動運動抑制,インスリン感受性改善が,血糖コントロールに優れた効果をもたらす.さらに膵外作用として,心血管イベントの抑制,腎保護効果の成績など多面的な効果が報告されている.自院の症例解析では, SU剤との相性がよく肥満者にも有効例は見られ,不十分な食事療法や服用中止での悪化あるいは投薬数量が増える傾向との成績を示された. 保険診療上の留意点については,審査員による多少の解釈の違いに触れた上で,指導管理料算定要件,薬剤や検査に対する適応病名,併用制限などの事項について細やかに解説された.

今日,DPP4阻害薬をはじめとする経口血糖降下剤などを駆使することで,“良質な血糖コントロール”が得られるようになってきた.他方,糖尿病治療の根幹は,食事療法や生活習慣の管理に相違ないことから,専門医の助言を取り入れつつ,広く実地医家が主体となって糖尿病診療を担当する態勢が必要であろう.本講演の狙いはこの点に帰結するのではないか.

H21.4.22
京都における胃がん検診の現況:第90回京都消化器医会総合画像診断症例検討会 特別講演要旨

X線検診の不合理性を踏み台として内視鏡による対策型胃がん検診(地域検診など)の実現が叫ばれてから久しい.しかし沸騰した議論も空しく足踏み状態が続いている.最大の要因は厚労省研究班が“内視鏡検診は死亡率を改善する証拠がなく,対策型検診として勧められない・・・”という判断を示した点にある.反面,仮に内視鏡検診が動き出したとしても,精度管理や偶発症への対応など受け皿としての整備が充分になされているだろうか.一方,人間ドッグのように個人の死亡率改善を期待する任意型検診は,内視鏡が主体となった効率的運営に基づいて一定の成果がみられ,被検者の受容性は高い.胃がん検診の現況と問題点を異なる角度から概説する
京都府医師会 消化器がん検診委員会 委員長 福光眞二

H20.11.7
消化管出血: H20年12月30日京都新聞コラム掲載
消化管出血って?消化管は食べたものを消化吸収そして排泄する臓器で,食道,胃,小腸や大腸で構成されています.その中に生じる潰瘍,炎症や癌が原因となって消化管出血が引き起こされます.具体的にどのような病気があるかというと,血管が露出した胃潰瘍や進行した肝臓病に合併する食道胃静脈瘤のように,大量出血となって命の危険にさらされるものがあります.一方,細菌感染性腸炎や最近増加が著しい潰瘍性大腸炎などの炎症や胃癌,大腸癌では概ね少量持続的に出血します.
どのような症状?
血液が口,肛門から排出されることをそれぞれ吐血,下血と言います.吐血はコーヒーのような黒茶色の吐物として観察されます.下血では食道や胃十二指腸からの出血の場合は墨のように真っ黒な便が排出されますが,大腸からの出血では赤みを帯びることがあります.また急速に貧血が進行すると,通常みられないふらつき,動悸,冷汗や顔色不良などの症状があらわれます.もちろん少量持続的な出血では特に症状はみられません.
治療はどうするの?
消化管出血を疑う際は診断のために内視鏡検査を行うことが必要で,出血源がわかればそのまま止血処置を行うことがあります.例えば胃潰瘍が見つかれば中心部を詳しく観察し,露出している血管をホッチキスのような装置で挟むか薬剤を注入することで出血を抑え込んでしまいます.ほとんどの症例は内視鏡で対応できますが,レントゲン下で血管の中にカテーテルという管を入れて処置をする場合や手術にまわることもあります.腸炎や癌からの出血は短時間に大量出血することは稀ですから,原因を取り除く治療を優先します. 気をつけておきたいこと
医療技術の進歩で消化管出血は克服されつつありますので,症状に気づいたら直ちに医療機関を受診することが大切です.また微量な出血を把握することが癌など重大な病気を発見するきっかけになりますから,かかりつけ医療機関への相談や検便による大腸がん検診を積極的に利用しましょう.

京都府医師会協力・京都消化器医会理事・京都府医師会消化器がん検診委員会委員長 福光眞二