【新社会大阪81号2008年11月掲載分より】


橋下知事批判を学校職場から

教育労働者 藤原一行



職場の仲間が車上荒らしに遭った。この半年で2回目、駐車場での被害である。ところが今回は一騒ぎ起こった。車内から盗まれた鞄の中に、クラスの生徒の実習感想文とその時の写真があった。個人情報の流出ということで、校長と2人で全家庭を訪問して謝罪し、市教委の事情聴取も受けた。しかし被害者である彼がなぜ謝罪しなければならないのか。もちろん、成績を含め個人情報は学校外に持ち出すことを禁じる通達は全教員が知っている。けれども毎日、夜の6〜7時まで働いても仕事が終わらない。盗まれた実習の感想文も次の日までに読み終え生徒に返さなければならなかった。持ち帰るか、8〜9時まで残業するしかない。また実習写真も学校のデジタルカメラが足りずに彼個人の物を使っており、カメラに内蔵されたメモリーごと盗まれたためにカメラ本体とともに、誰からも弁償されない。


自己責任と自己負担

この他にも仕事に私物の携帯電話が使われている。生活指導上の問題が多く、生徒本人の持つ携帯電話での連絡も含め、家庭への連絡にも頻繁に行われている。果ては校内での職員間や職員室との連絡にまで使われる。確かに便利ではあるが、通話料を含む電話代のすべては教員の自己負担である。

とにかく仕事が多い。昼の弁当を3時ごろに食べている同僚もいる。そして仕事がうまく回らないと、組合員が担当の組合員をなじる。身内のパワハラ、労働組合の分会の分断と崩壊の始まりである。校長のパワハラも続く。車上荒らしに遭った彼から事情を聞いた際、校長は「これで66/100やな・・・」と言ったという。期末勤勉手当が標準の71/100から66/100に落とされるぞと処分をちらつかせているのである。冗談じゃない。それは「評価育成システム」に反対して「自己申告書」を出していない私たちと同じ賃金差別なのだ。おかしいやないかと分会の仲間にも話したが,「しかたがない、それに彼はうちの分会員でもないし・・・」とにべもない。彼はこの春、退職した先輩の義理に駆られて他労組の全教の組合員になっていた。しかし労働組合が職場の仲間を守らないでどうするんやと腹が立つが、一人一人が自己責任を追及され、精神的にも追いつめられているのだ。

たしかに生徒や保護者に対して「直接責任を負う」のが教育労働者の仕事である。しかし私たちの生活と健康破壊の責任は労働組合も管理職も誰も取らない。私と同じく頸椎ヘルニアで腕のしびれと痛みから、顔をしかめながら働いている仲間がいる。私も先日,5時半からの会議の最中に肋間神経痛が出たものの、抜けられない会議だったので我慢をして終了後に熱いお湯を飲み、その熱い湯飲みで胸を温めて痛みが治まるのを待った。分会の仲間から「もっと仕事を他の人に頼んで分担したらええのに・・・」とも言われる。しかし同じ教科の相棒は、若いが講師のために賃金も正職員の半分しかない。同一労働同一賃金ではないから仕事も頼みにくい。やっぱ分会全体で相談しないと何も解決策が見えてこない。


平均正答率って何?

いらん仕事を増やしてくれるのが橋下徹知事だ。全国学力調査の結果の公表も、市町村の教職員の人件費を負担する府の圧力(「予算で差をつける」橋下知事)から既に6割以上が公表に方針転換し、本市も各教科の平均正答率をホームページで公表した。そこでは「全ての教科・区分で全国を下回っています」とある。「学校と家庭・地域が課題を共有するため公表する」と言うが、子どもは自信を無くし、地域の学校不信をあおり、塾への依存を深めるだけだ。

そもそも「正答率」とは、個別の出題に関して見るならば正答率が低ければ問題の難易度が高いか、或いは授業および学習内容に課題があるとの判断もできよう。しかし、市内の中学3年生全部をひとまとめにした「平均正答率」でわかるのは、他の市町村との比較のみである。つまり競争と差別の材料を明らかにしただけである。本市教委自身「子どもたちの学力と,基本的な生活習慣や家庭学習習慣、読書習慣は大きな関係がある」と認め、その面でも全国を下回っているのだから、子どもの生活環境の改善こそが緊急の課題であることは間違いない。

そんなことはわざわざ全国調査なんかせんでも、これまでの校内調査で分かり切っている。家庭の就学援助率が3割を超し、高校奨学金の申し込み率が5割を超す地域である。家庭の経済状況と子どもの学力が強い相関関係にあることは明らかであり、生活保護や実質ゼロに近い「高校入学金貸し付け予算」の拡充など、教育予算の増額こそが必要なはずである。

地方分権の観点から見れば、教育委員会は議会や首長から独立した判断をすべきだ。それが教育委員会制度の本来の目的であり、吹田市教委のように「点数至上主義に反対だ」として、結果の非公表を表明する市町村教委は希で、ほとんどが文部科学省や府教委の上意下達の組織に成り下がっているのである。


あきらめか怒りか

校内では、授業の改善計画を作れとか学力向上の取り組みを地域に見えるようにせよと、民間でいう生産性向上の新たな仕事が増えてきている。そして橋下知事は35人学級の廃止には失敗したが、私学助成を全国最低基準に削減し、すでに私立高校の授業料値上げが始まっている。また、大阪府の完全失業率と就学援助率は全国2位。中学生1人当たりの教育予算は全国45位で、見通しのない困難な教育活動が続く。

今年8月から賃金は年齢に応じて3.5〜9.5%カットが3年間続き、当分の間退職金も5%カット。府人事院勧告も4月時点での官民格差は0.05%だからとゼロ回答で、8月時点では7.74%(29264円)民間より低いにも関わらずである。

さらに知事は地域の対話集会で「9割の先生は熱心だ。残り1割のダメ教員を排除しよう」と言う。「何ぬかしとんねん!ダメ弁護士こそ辞めてまえ!」との怒りの声が挙がる。しかしその一方で仕事が忙しすぎて分会の飲み会ですら全員集まらない。集まったメンバーも重たい話題は避けて、趣味や人のうわさ話で盛り上がる。けれどふと「もう今年で仕事辞めようかと思うねん・・・」と、悲痛な悩みを漏れらす仲間もいたりする。

労働者として、一人の人間としての誇りが奪われ、「怒りエネルギー」だけでは闘い続けるのが困難になってきている。最後はやはり分会の仲間と力を合わせて自分を守り、仲間を守るしかないのだが。もう一度、ユニオンの闘いに学ぶために冊子を読み始める、今日この頃である。