番外編
本編が終わり、いつものように番外編です。このハネムーンだけ番外編をしないなんて事はもちろんありません。今回も色々と書いてみました。本
編で既に出ているけど改めて凄かったなと思った部分、新たに感じた点などを挙げて書いてみました。では、どうぞご覧下さい。
◎主人公らしくない主人公
この物語の主人公、桑木阿佐子は主人公らしくない部分が目立ちました。確かにシーン的には多くは出ていましたが、セリフがそんなに多くなかっ
たです。いや、セリフが多くなかったと言うよりも、他の者に押され気味になってあまり喋っていなかった
、といった方がいいでしょう。
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆ 本編第2章より ☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
・・・ さあ、今度はいよいよ斉田正司と対面した阿佐子。すでに会話も行われております。
「・・・緑が綺麗だ。今が一番いい季節ですね。」
これを聞いてニッコリとする阿佐子。「僕も、まったく天涯孤独でしてね・・・。その点でもお互い似た境遇ですね。」 「ええ・・・」と、阿佐子は出てるの
か出てないのか分からないくらいの小さな声で答えてますが、顔は笑顔。正司のことを快く思っています。「僕の身寄りらしい身寄りと言ったら、田城
所長くらいですよ。ねえ田城さん?」 と、右隣を見る正司。するとそこには田城所長の姿が・・・。おお、私はてっきり2人っきりだと思ってたんです
が、そうではありませんでした。その田城所長、コーヒーを飲みながら「うん、そうだね。」と機嫌良さそうに答えています。 「スポーツは何か?」 「あ
あ、テニスを少し・・・」
「ウィンドサーフィンやりなさいよ。」
と勧めてくれる正司。命令形にはなってますが、口調が実に穏やかなので好感が持てます。「ウィンドサーフィン?」 「ええ。スカッとしますよ。あなた
バランスが良さそうだから、きっと上手くなりますよ。」 「そうでしょうか・・・? じゃあ、私もやってみようかな・・・」 「教えてあげます。」 頷く阿佐子
に、 「よし決まりだ。」とダメ押しの一言。こうして正司のほうがややリードする形にはなっておりますが、2人、かなりいい雰囲気になってきまし
た。 ・・・
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これは、阿佐子が正司と初めて会った見合いでのシーン。見合いでは男がリードして女は無口になるというケースが多いので、これもごく自然の事
かもしれませんが、阿佐子の場合はこれだけではなく、この後もこうしてトークでは押され気味になる事が多かったです。性格的にも、おとなしく控え
目。正司、和子、田城所長など、阿佐子の周りの者の方が喋りは積極的だったように思えました。また、だからこそおとなしい阿佐子がより際立っ
たとも言えるでしょう。
◎結局誰も死ななかった
このハネムーンは、火曜サスペンス劇場の作品でした。火曜サスペンスといえば、やはり殺人事件が起こる、そしてその解明がどうなっていくかを
視聴者が楽しむ展開になっているのが多いです。まあ展開は様々にしても、最低1つは殺人事件が起きるのが主です。ところがこのハネムーンで
は、結局誰も死ぬことはありませんでした。ただ、死に至るんじゃないかという危ない場面はかなり多くありました。遮断機をかいくぐったり、海に飛
び込んだり、さらにはラストのあの観覧車シーン・・・。特に遮断機に関しては2回、かいくぐった時とそうしようとした時の2回のシーンがありました。
亡くなったといえば、阿佐子が大切に飼っていたインコ、あとは正司の前妻であったリエが亡くなっていますが、これは物語が始まる以前の事でした
ので、ストーリー中の死者はトータル0でありました。こういう展開と言うのは実に珍しいです。ハネムーンは火曜サスペンス劇場の中でも
異例の作品であったと言えるでしょう。
◎出番の少なかった登場人物
主な登場人物、のちにこれが最終章の終わりのほうで出演者紹介として役名付きで挙げられるわけですが、出番がやけに少なかった者が2人いま
した。松永幸雄と幸田です。
松永幸雄・・・第1章と第7章のみ登場。第1章では、妻の和子と子供、それから阿佐子も招いての夕食シーン時に出ていました。口数は少なかっ
たですが、それでもいい家族スタイルを阿佐子に見せることに貢献しました。そして随分間があって今度は第7章で登場。ここでも、
悩み疲れている阿佐子を少しだけですが勇気づける役割をしました。幸雄はこの2回のみの登場、しかもいずれも自宅である松永
家でした。
幸田・・・第1章のみ登場。結婚科学研究所の女性事務員で、結婚の相談で訪れてきた阿佐子に、いい笑顔で対応しておりました。そして何と、そ
れ以降はまったくの出番なしでした。
こうして、主要人物の割りにほとんど出てくることのなかった2人。特に幸田はわずか一度、それもサブタイトルに行く前しか登場しませんで
した。
◎倉橋は見習うべき人間!?
倉橋は、この物語の中でもちょっと危ない人物でした。阿佐子と付き合っていた男で、別れたがっている阿佐子の申し出をなかなか受け入れようと
しませんでした。そして、別れてしまった後でも未練がましそうに阿佐子のことを見ていたシーンがありました。
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆ 本編第4章より ☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
・・・ さあ、このままここでの買い物も済ませて無事家に帰ろうという所でしたが、そうはさせじとあの男、倉橋が現れました! 現れたと言って
も、阿佐子たちの目の前にバーンと出てきたのではなく、20メートルほど離れた遠方からジッと見つめております。今ではストーカーという名前だけ
はカッコいい言葉が存在しますが、この1986年にはそんな言葉はありませんでした。なのでこれは、カッコいい名前もない単なる危ない奴です。そ
の危ない倉橋に気づいた阿佐子。「ねえあっちの店。」ととっさに正司に言い、すぐに八百屋を去ることにしました。歩く2人を、これまたジッと見続け
る倉橋。こうして何もしないで見つめるだけというのが、ホントに怖かったりします。 ・・・
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ただ、考えようによってはこの倉橋はそんなには危なくない、結構普通の男であることも言えると思います。上で紹介したシーンのように、今で言うス
トーカーに近いような行為をしかかってはいますが、これは阿佐子が以前倉橋と一緒に住んでいたアパートを引き上げた時に、倉橋のスリッパだけ
を乱雑にしてしまっていた。それを見て頭にきたためにそういう行動に出たのだとも言えます。また倉橋は、そのあと阿佐子のことを付け回したりと
か、嫌がらせをしたりとか、そういう事は一切しませんでした。今では恋愛関係のもつれで悔しい思いをした者が、付き合っていた相手に犯罪級の
行為を及ぼすことが多くありますが、この倉橋はそこまで行くことなく踏みとどまった、むしろ見習うべき人間というべきなのかもしれません。
◎犯人の予想
犯人は、話の展開的にはほぼ正司だと思われてきました。最初は倉橋がフラれた腹いせに阿佐子を不安がらせていることも考えられましたが、催
眠術を使っての巧みな洗脳技術。それが出来るのは、状況、その他の面から見ても正司しかいないと思われてきました。ただ、これはサスペンスな
のでそんな簡単な内容のまま終わるわけはありません。となれば、正司以外の別の人間が真犯人という可能性が出てくるわけですが、ちょっとそう
思われるような人物はなかなか予想できませんでした。他の登場人物を振り返ってみましても、中でも吉岡や幸田などはとても犯人とは思えない、
強いて言えば阿佐子と一番親しい存在である和子と、その夫・幸雄との共謀くらいしか考えられませんでした。ところが、何と真犯人はまさかの田城
所長。阿佐子も驚いていました。でも、この物語は犯人が誰かを予想するよりも、謎解きといった点での楽しみの方がよりあったんじゃないかと思い
ます。
◎恐るべきカラクリ
その謎解きですが、ホントに恐ろしいカラクリになっていました。真犯人は先ほども述べたように田城所長だったんですが、その田城所長も実は催
眠術を使える人間だった事がまずは衝撃的でした。正司にいったん術をかけておいて、そして阿佐子まで操る・・・。これを「リモコン催眠術」と言っ
た正司は、上手いこと名づけたなと思いました。そして、田城所長が正司に催眠術をかけた時のあの長ゼリフは本当に印象的でした。
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆ 本編最終章より ☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
・・・ さあこうなってくると気になるのが、このあと田城所長が正司に何を言うかということ。ではその内容を聞いてみましょう。
「君は私の言う事しか聞こえない。君が、阿佐子さんと2人にかけた生命保険の受け取り人の
名義は、私田城一成に書き換えてあるね? 君は明日阿佐子さんと2人でドライブ
に行く。ドリームランドがいいね。そこで・・・君たち2人は・・・観覧車に乗る。観覧車は二度
揺れる。最初揺れる時はちょっと面白くて、そしてだんだん楽しくなる。雲に乗ったような
気分になる。二度目に揺れた時は、飛び降りたくなる。2人は飛び降りる! 楽しいゲー
ムだ。君は・・・私の言う通りにする。もし失敗したとしてもその瞬間に私の事は
全て忘れる。私が君に言いつけた事も全て忘れ、我々の間には何もない。金は私のような
人間が使ってこそ価値があるんだ。」
最後に少しギョッとした目で正司を見つめ直した田城所長。正司は催眠術をかけられてからずっと放心状態です。 ・・・
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この長ゼリフの後に、これまでの謎がいっぺんに解けたこと、正司のこれまでの怪行動の謎、田城所長のステレオの音楽のこと、正司の前妻の保
険金の受取人のことなど、私は本編でお伝えしましたが、もう言いたい事は他にも山ほどありました。しかしそれをやっていると、いつまで経っても
物語を書き終えることは出来ませんのでしていませんが・・・。人を洗脳してしまう恐ろしさ、またそれが場合によっては人を死に至らし
める事もある。この物語の脚本・・・すいません誰かは知りませんが、その脚本家の人はそこを一番伝えたかったんじゃないでしょうか・・・。また、
それが実によく表れた話になっていました。
◎ラストの観覧車シーン
ラストの観覧車シーンはドキドキ感満点でした。一番大事なこのシーンの舞台を観覧車にしたのが良かったなと思います。ただ、物語的にはそれを
選んだのは悪者の田城所長なわけで、この辺りは少し妙な気持ちになってきます。その観覧車のシーン、もう一度見てみましょう。
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆ 本編最終章より ☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
・・・ さあ、そんな事を言っているうちに、二度目の揺れが来ました! 催眠状態の正司が、胸元からテレホンカードのようなものを出し、それ
を使って、
ゴンドラの戸の鍵を開け始めました!
それを笑顔で見ている、こちらも催眠状態の阿佐子。鍵を開けようとしている正司も笑顔なので、もう見ていて非常に異様です。さあ、鍵が開きまし
た!
うわヤバい! メチャクチャヤバいです!! ゴンドラの戸を開けた正司。2人はそろって立ちあがり、飛び降りスタンバイOKの状態になりま
した。この時も笑顔の2人。うわぁ〜、これはもう高所恐怖症の人にとってはとても見れないシーンですね・・・。少し間が開き、そして! そして!!
ゴンドラから阿佐子の姿が無くなってしまいました!!
ついに飛び降りてしまったようです!
「阿佐子!」
と、ここで催眠術が解けたのか、思わず声を上げてしまった正司。長いこと誰もセリフを発していませんでしたが、それもようやく出てきました。さあ、
空中には飛び降りた阿佐子の姿が! ・・・・・・いや、違いました! 阿佐子ではなく、阿佐子の着ていた上着だけが舞っております! 色白を保ち
たいためなのか、この暑い中でも上着を着用して来ていた阿佐子。その上着だけが舞っております。では問題の阿佐子はどこへ行ったのでしょう
か!? 心配し、サングラスを外して必死の顔つきで探す正司。すると、何とゴンドラから阿佐子の下半身が見えてるではありませんか! 落ちまい
と上半身をしっかりゴンドラに密着させている阿佐子。
阿佐子は落ちてはいませんでした!
とはいえ、このままの状態だといずれ力尽きて落下する可能性があります。「阿佐子!」と、また声を上げ、助けに入る正司。これでもう、阿佐子も
正司も催眠術から解放されていることが分かります。力を振り絞り、阿佐子の全身をゴンドラに戻すことに成功した正司。2人は助かりました!
・・・
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ピックアップしたのが少し長くなって申し訳ないですが、どの部分も大事だと思ったもので・・・。見てる側からすると、ホントにドキドキするようなシー
ンでしたが、催眠状態にかかっている当の2人は、怖がるどころか笑顔さえ見せているのが凄かったです。もう何だか違う世界の人間を見ているよ
うでした。そしてやはり一番の見どころというか、強烈だったのは、阿佐子がいったんは落下したと思われた所でした。これこそがサスペ
ンスというものでしょう。しかし、結局は主人公がそう簡単に死ぬことはありません。正司と共に無事生き残り、田城所長の殺人計画を阻みました。
以上、番外編ということでまとめてみました。今回は7項目書かせてもらいました。本編よりもこの特別編の作成は楽なんじゃないかと思われるかも
しれませんが、いやいや決してそんな事はありません。この特別編も同じくらい大変です。さあその番外編も終わり、これで今度こそこの物語とのお
別れの時が来ました。では、こちらのほうもご愛読ありがとうございました。