番外編
本編が終わりました。さあ、番外編です。このタクシードライバーの推理日誌「殺人化粧の女」も文庫本があります。ということでいつもの通り、テレ
ビ版と文庫本の共通点、相違点を中心に書いてみたい・・・と言いたいところですが、残念ながら文庫本を無くしてしまいました・・・。しかし、悩
むほどのこともありません。本編で書ききれなかった点もたくさんあります。そこで、改めて気づいた点を中心に書いてみました。では、どうぞご覧下
さい。
◎夜明登場
物語が始まっていきなり主人公の夜明が登場してくれました。今や第26作までテレビ放送されシリーズ化している「タクシードライバーの推理日誌」
ですが、これはその最初となる貴重なシーンです。ただ貴重な割りには、走行中のタクシーから見た夜の一般道路の風景と、素っ気なく地味なスタ
ートとなりました。そして早くもチンピラ2人をタクシーに乗せ、険悪な雰囲気となってしまいます。
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆ 本編第1章より ☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
・・・ チンピラの弟分のほうが、「てめえ、耳がついてんのかオラ。」と言って本当に夜明の左耳を触ろうとしました。と、その瞬間、夜明が急に荒っ
ぽくハンドルを左右に切りました。そのせいで車は極端な蛇行状態となり、2人のチンピラの体も左右に大きく揺れました。びっくりする2人。思わず
弟分のほうが「この野郎!」と言いますが、兄貴分のほうが「おい!」と止めました。さあ、ここで主人公の夜明が初めて喋ります。では、その第一声
を聞いてみましょう。
「偽名や芸名で免許取れねーよ。」
穏やかではありますが、低い声で2人に言い返しました。 ・・・
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この夜明の第一声も、実にドスのきいたもの。どっちがチンピラなのか一瞬分からなくなったくらいでした。そして予想通りというか、結局は取っ組み
合いのケンカになりました。こうしたここまでの話の展開を見てみると、これはサスペンスドラマというよりVシネマのような任侠映画になっていくん
じゃないだろうかという感じでしたが、小百合とあきがタクシーに乗ったことにより、夜明は一転して穏やかになりました。良識のある人間に対し
てはちゃんと普通に応じ、そうじゃない人間に対してはとことん容赦しない。そういった夜明の性格、人間性をこの序盤でまず視聴者
側に上手く伝えております。そして、ここから段々とサスペンスドラマらしい話と変わっていきました。
◎容疑者は5人
サスペンスというのは、やはり多くの容疑者が浮上すれば面白さも増します。この「殺人化粧の女」も、容疑者らしい容疑者が5人もいました。では、
その5人の顔ぶれを見てみましょう。
大場真一郎・・・妙子殺しの第一発見者。しかも、その事件現場は彼の別荘であった。しかし確たるアリバイがあり、容疑者から外れた。
池上(バーテン)・・・妙子が殺された時には、えみと一緒にいたと主張。が、大場邸に単身様子を見にきていたことや、えみと一緒だったのは実は
ウソであることが判明し、疑われることに・・・。しかし、河口湖の事実が浮かび上がった辺りから、容疑者から外れていった。
水木良平・・・河口湖の事件の被害者側である水木家の主。上2人と違って動機は充分。加害者側であった妙子を殺した犯人と思われたが、実は
すでに病死していた。
小山田光児・・・河口湖の事件の関係者で生き残っていた2人のうちの1人。妙子と金銭上のトラブルもあったとも推測され、犯人である可能性が
ますます出てきたが、死亡してしまった。
小百合(水木令子)・・・小山田が罪に絶えかねて自殺、これで事件解決と思われたが、河口湖の事件の関係者で生き残っていたのはもう1人い
た。それがこの小百合。夜明の名推理により、とうとう真犯人であることが暴かれた。
結局小山田の死も自殺ではなく小百合による犯行でした。しかしこの小百合が真犯人であることを見破ったのは、すべて夜明の手柄。刑事をやめ
たのがホントもったいないくらいの活躍ぶりでした。
◎妹と弟
小百合には、妹と弟がいました。不幸にも亡くなってしまったわけですが、実は河口湖の事件が明るみになる前に、小百合は彼らのことを言ってい
ました。
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆ 本編第1章より ☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
・・・ その夜明が、いつの間にか地面にカカシの絵をチョークで書いていました。それに気づいた小百合。
「カカシ、知ってます?」
そう言われた小百合は、この絵の上を片足飛びや両足飛びで行き来しました。なかなか慣れたステップです。「よく知ってますね。」 「小さい頃、弟
や妹たちとよくやったんです。」 ・・・
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さすがの夜明も、小百合が水木令子であることは見破りましたが、このカカシをしている時に小百合が兄弟のことを言っていたことまでは思い出せ
なかったようです。もし、河口湖の事件が明るみになった時点でこの事に気づき、すぐに小百合の正体が分かったとしたら、その人は夜明以上の推
理力を持っていることになるでしょう。
◎3人の愚か者
文庫本の中では、河口湖の事件の加害者側の人間たちを「3人の愚か者」と表記していました。ちょっとその3人を触れてみましょう。まずその1人
目の星野。何と言っても、一番悪いのはこの男でした。モーターボートを操縦し、水木家の子供2人を死においやった張本人です。仮釈放になって
水木良平と会っても、反省の色はまったくなしでした。良平が星野を殺った瞬間を見た視聴者側の人達は、結構胸がスッとしたかもしれません。続
いて妙子。この物語に一番多く登場していました。モーターボートには星野と一緒に同乗していただけですが、彼を止めるどころか一緒になって喜ん
でいたのは、やはり許される事ではありません。ただ、小百合と再び会わなければ殺されることもありませんでした。結局妙子の裕福な暮らしぶりが
小百合の殺意を呼び起こすこととなり、あのように酷い殺され方をするハメになりました。最後に小山田。妙子と同じくモーターボートに同乗していま
したが、そのハイテンションぶりは半端じゃありませんでした。妙子の店に客としてよく来ていた事から、これも小百合と妙子の再会がなければ死ぬ
ことはなかったでしょう。妙子に引けを取らないくらいの凄い殺され方でお陀仏となりました。
振り返ってみると、小山田はどちらかといえばついでで殺されたという感があります。確かに河口湖の事件の加害者ではありますが、その後は妙子
のように裕福な暮らしをしていたわけではなく、交通事故を起こしてしまった相手の福原に対してよく尽くしていたりと、あまり人間的な悪さというもの
を感じさせない男でした。まあいずれにしても、悪いことをしたらいつか必ず報いを受ける、それがこの物語ではよく表れていると思います。
◎謎の神谷警部
謎というほど大げさなものではありませんが、この「殺人化粧の女」ではあまり登場することはありませんでした。一応夜明とは古くからの刑事時代
の仲間という設定なんですが、登場シーンが少ないこともあってか、その分なかなか味のあるやりとりを披露してくれました。
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆ 本編第4章より ☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
・・・ 「はい。」と、保留状態にしてある電話機へと向かう夜明。保留を解除し、受話器を取りました。「はいもしもし夜明です。」と、少しだるそうな口
調で言う夜明ですが、電話の相手を知って、思わず急に引き締まった態度を取ってしまいました。「神谷!? 神谷警部・・・。どうも。」 受話器も、
無意識のうちに利き手の右手に持ち替えております。
「明朝、タクシーを使いたいのです。お手数ですが、ウチの東山刑事を運んでやって
ほしいんです。何ぶんよろしく。」
それだけ伝え、あとは余計なことは一切言わずに電話を切った神谷。この時の夜明の反応が、何ともいいです。「何ぶんよろしく。」と、神谷に言わ
れた事をそのまま吐き、首をわざとらしくかしげて、少し笑みを見せました。 ・・・
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神谷のセリフがあったのはこの第4章だけで、やはり少ないです。しかし、エンディングの出演者紹介ではトリを、つまり最後に名が出ております。い
わば主人公の夜明の次に位置していると言ってもいいのに、これだけ登場が少ないというのも珍しいです。
◎最終決着
物語の4分の3が終わったくらいで、夜明と小百合の一騎打ち状態になってきました。今までは誰が真犯人であるかと推理する面白さがありました
が、今度はもはや真犯人は小百合で、そのからくりを夜明の推理と共に楽しめるという展開になりました。結局2人の対決は夜明に軍配が上がり、
追いつめられた小百合は最後の手段に出ました。
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆ 本編最終章より ☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
・・・ 夜明は小百合とは少し離れた位置まで歩き、背を向けました。と、この時でした! 突然、持参してきたバッグからハサミを取り出す
小百合。おお、これはあのとき小百合の自宅の床に落ちていたハサミ。まさかこれで夜明を・・・!? 確かに真犯人が小百合であることを知っ
ているのは、この夜明しかいません。つまり、彼さえ始末すれば警察に捕まる心配はありません。しかも第7章では、「ちゃんと生き延びてみせま
す。」と言っていた小百合。これは非常にヤバイ展開になってきました! さあもうすでに、ハサミを持った夜明に向かっている小百合。夜明はまだ
事の重大さに気づいていないのか、以前背を向けたままです。どんどんと近づく小百合。そしてついに、
ハサミを持ったまま、夜明の体に接触しました!
うわ!これは刺されたのか!? 鈍い効果音が聞こえてきました。夜明も苦しそうな顔を見せておりますが・・・・・・・・・
ハサミの刃先には、血が着いていません。結局、小百合は夜明を刺すことは
しませんでした。
まさに危機一髪でした。 ・・・
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
夜明を刺して捕まることなく生きるよりも、自首を選んだ小百合。選んだ選択肢は正しかったですが、どことなく悲しさが溢れる結末となりました。
◎ラストは娘と・・・
ラストは、夜明とあゆみのツーショットデートで幕を閉じることになりました。刑事を引退しても、またこうして事件に関わってしまった夜明。いや、きっ
と現役の時にも経験したことのないほどの複雑な事件だったでしょう。そんな夜明にも、やっと落ち着ける一時が来ました。それがこのラストのあゆ
みとのデートです。買い物をして、そして街を歩く。エンディングが流れている最中は2人の会話の声は聞こえなくなりましたが、楽しそうな雰囲気
は充分に伝わってきました。
以上、番外編ということでまとめてみました。今回は7項目書かせてもらいました。今度は1時間ドラマではないので、ちゃんと6項目以上書きまし
た。番外編も終わり、これで今度こそこの物語とのお別れの時が来ました。では、こちらのほうもご愛読ありがとうございました。