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本編(深夜の法廷)

 

さあ新シリーズの始まりです。今度は4作品目、「深夜の法廷」。火曜サスペンス劇場なので、例によってパンパンパーン♪パンパンパーン♪という

派手な音楽と、ストーリー中の決め手となるシーンが次々と写し出されるというオープニングから始まります。しかしこの火サスのオープニングを見

ていつも思うんですが、もしこんな衝撃的なシーンが2時間丸々続いたら、たまったもんじゃありませんね。もちろんそうじゃありません。そこはやは

り穏やかなシーンやほのぼのとした場面も当然あるわけで、だからこそ物語として成り立つんだと思います。さあ、タイトルと主演の人の芸名も出て

きたので、さっそく行きましょう。いきなり全部を作るなんて神様じゃないと無理なので、第1章〜第8章(最終章)に分けていきた

いと思います。ではまず、いちばん要となるストーリーの第1章からどうぞ!

 

もう第1章の話は知っている。早く他の章を見たい人は、

こちら(第2章第3章第4章第5章第6章第7章最終章へどうぞ。

  

◎主な登場人物

 秋葉香江:この物語の主人公。一見もろくておとなしい。しかしその実は・・・

 秋葉洋平:香江の夫。中学の教師をやっていて順風満帆だが、ある事をきっかけに破滅していく・・・。

 木内志津:香江の母親。嫁に行った香江とは当然名字は異なる。今は亡き自分の夫から暴力を受けたという過去を持つ。

 川原美紗:香江の唯一の友達。秋葉家や志津とも馴染みが深い。美容院の仕事をしている。

 高村伴代:洋平の学生時代の同級生。幼稚園に勤めている。本編途中で殺されてしまう・・・。

 谷井刑事:伴代の事件を担当。しかし見当違いの方向に捜査を進めてしまい、結局真相を知ることの出来なかった刑事。

 黄金コンビ:一番下、黒字という変わることのないナレーション

  (注:上と同じ色で登場人物の台詞も分けています。)

 

◎ストーリー(第1章)

まずは、意表をつく回想シーンから始まりました。ある中学の教室に1人ポツンと座っている女生徒。そして、その女生徒の元にゆっくりと歩み寄っ

ていく1人の男性教師。たぶん担任でしょう。彼女に対し、次のように穏やかに語り始めます。

 「似ている。竹久夢二の描いた少女がここにいる。やさしくて、いじらしくて、すぐに傷つきそうな

  柔らかな頬と、白い肌の少女。もろくてはかなくて、日陰に咲く可憐な花。こうして支えてやらな

  いと、もろく折れてしまいそうな感じ。『黄八丈』という絵にそっくりだ。」 

ここまで言った後、教師は女生徒の肩に手をやりました。教師の形容の通り、見るからにおとなしそうなこの女生徒。さて、次はこの女生徒の胸のう

ちを聞いてみましょう。

  ──先生に言われて、私は『黄八丈』の絵が好きになりました。絵に描かれた少女の顔が、好きになりました。

とここで、竹久夢二が描いたと思われる『黄八丈』の絵が画面に出ましたが、どうもこれ本物じゃないみたいですね。調べたんですが、『黄八丈』とい

うタイトルの絵が実在しないのと、あと竹久夢二の本物の絵に比べて明らかに美人に仕上がっております。やはり、視聴者側のウケを

よくするために、敢えて作り物をこしらえたと考えるほうが妥当のようです。さあ、再び女生徒の思いの続きを聞いてみましょう。

  ──少女と私は一体となり、やがて大人になりました。

すでに教室を出て下校している女生徒。ここで画面下には「十四年後」と出て、回想シーンもここで終了。現代に戻りました。そして、下校中の女生

徒の姿も、14年後の女性の姿へと変わりました。この女性の名は、秋葉香江。今、自宅へと向かっております。

  ──そして結婚した相手はやはり、中学の教師でした。あの少女の頃の思い出が、今の私につながっているのかもしれません。

えー、もう現代のシーンに戻っていますので、香江のセリフ及び思いは紺色で表記していきます。さあ、もう玄関口のところまでやって来た香江。とこ

こで、第1章なのでそろそろサブタイトル紹介。

 〜深夜の法廷〜

果たして「深夜の法廷」とはどういう意味なのか? 実際に裁判官や検事が深夜に出廷して裁判が行なわれるんでしょうか? それとも・・・? ちょ

っと意味深げな疑問が頭をかすめてしまいますが、物語を進めていきましょう。

 

やっと家に着いた香江。表札には、『秋葉洋平・香江』とあります。一発で子供無しの2人住まいという事が分かります。家の中に入り、ここは台所で

しょうか、まずはマフラーを外してテーブルの上に置く香江。そして壁には例の『黄八丈』の絵が、傾いてはいますが、大事そうに飾られております。

絵のところに行き、その傾きを直す香江。絵の中の少女を見ながら言います。

 「あなたはいつまでも可憐な美少女。私はいつまで、あなたの真似が出来るのかしら・・・」 

そんな物思いにふけっている香江を、ここで玄関のチャイムが断ち切ってしまいます。誰かがやって来ました。「はーい!」と、先ほどのつぶやくよう

な声とは違い、やや大きめの声を出す香江。そして玄関に向かいます。「鍵開いてます。ずいぶん早いんですね今日は・・・」と、すっかり夫の洋平が

帰ってきたと思い込みながらドアを開ける香江。しかしそこに立っていたのは、洋平ではありませんでした。「沢田さん!」と急に笑顔になる香江。そ

の沢田という男も「香江ちゃん! やっぱりここだった!」と言い、出迎えた香江に対し愛想よく笑顔を見せます。ていうか、もし夫の洋平が帰宅

してきたのなら、普通はチャイムは鳴らさないはず。なぜ香江は洋平が帰ってきたと思ったのでしょうか? あるいは、洋平はわざわざチ

ャイムを鳴らすタイプの人なんでしょうか・・・? まあそこは、今後洋平が帰ってきた時に注目してみることにしましょう。再会で興奮気味の両名の会

話に戻ります。「いや、こっち出張だったもんだからさ、香江ちゃんのこと思い出して探したんだよ。いや、すごい新居だな。」 「いやだ新居だなん

て、もうすぐ3年になんのよ。」 「そうか、郵便局やめて3年になるのか・・・」 「みんな元気?」 「んーまあ、退職したりね、転勤したりして・・・。あの

郵便局じゃ俺が一番の古株になっちゃったよ。」 「ウフフフ・・・」 本当に嬉しそうに話す2人。もう次々と言葉が飛び交っています。「・・・あ、ねえ上

って。こんなとこじゃゆっくり話も出来ないわ。」と、やや強引に沢田を玄関内に入れ、すぐにドアを締める香江。おお!なかなか積極的です。しか

し対する沢田のほうは、「ご主人は?」と少し遠慮気味。「まだよ。6時半きっちりに帰ってくる人だから。」 「中学の先生なんだろ? 大変なんだよ

な、今の受験期って。」 

 「でも職場のこと何にも話してくれないのよ。」 

香江はもうすでにスリッパを出しています。いや〜、やることが早い早い。「僕もさ、2人目が出来てさ・・・」 「すっごおい! おめでとう。」 「香江ち

ゃんは?」 まだいないので横に首を振る香江。沢田がこの質問をするということは、どうやら彼は表札のほうは見てなかったようですね。「あ、ねえ

上がって。いいでしょ?ちょっとだけなら。懐かしいわ〜。」 「じゃあ・・・ちょっとだけ。すぐ帰るよ。」と、ついに誘いに負けてしまった沢田。が、やは

り少し遠慮がちのようです。

 

さて、夜になりました。仕事を終え、帰ってきた洋平。ということは、香江の言っていた事が正しければ、今は6時半なのでしょう。季節は受験期とい

うことなので、おそらく2月頃。てことは、6時半にはもう完全に日が暮れていてもおかしくありません。ところが、玄関のドアを開けようとした洋平は、

あるおかしさに気づき、顔をしかめます。台所でご飯の支度をしている香江のところまでやって来た洋平。しかし、香織はまだそれに気づいていませ

ん。「おい。」 「・・・あ! あ、お帰りなさい。」 「玄関の鍵、かかってなかったぞ。」 すぐに「すいません・・・」と謝る香江。「無用心だと何度も言わ

な。」 「はい・・・」 口調こそ穏やかですが、もうこの時点でしっかりと亭主関白ぶりを視聴者側にアピールしている洋平。ソファでくつろごうとしま

したが、今度はおかしな点第2弾を見つけます。それは、灰皿の上にある数本のタバコの吸殻・・・。すぐさま「香江、ちょっとここへ来い。」

呼びます。「はい。」 エプロンを付けたままですが、洋平の言う通り来る香江。「座れ。」 「はい。」 もう香江はさっきから「はい。」しか言っていませ

ん。「俺の留守に、男が来たな?」 「はい。」 「誰だ?」 「沢田さんです。」 別にやましい所などない香江は正直に答えます、しかし・・・。「知らんぞ

俺は。」 「結婚式にもお呼びしたじゃない。出張のついでに寄ってくださったんです。」 「それなら玄関でいい。ここまで上げることはない。」 「立ち

話も何ですから、ちょっと上がっていただいて・・・」 「ウソ言うなよ。ちょっとだけで5本も6本もタバコ吸う奴がいるか。」 何かもう、昼間の沢田との

弾んでいた会話の時とはまるで正反対ですね。重苦しい雰囲気に包まれております。「タバコ好きな人ですから・・・。」 「嫌に親しそうだな。」 「一

番お世話になった人よ。」 と、ここまでは香江も我慢できる範囲。しかしこの後、洋平の口から信じられない言葉が・・・!

 「キスでもしたのか?」

一瞬にして凍りつく表情に変わってしまう香江。「あんまりです・・・。」 「そいつはお前に惚れていたのか? 俺と結婚したんで、恨み言の1つも言い

に来たのか? 亭主の留守にお前抱きに来たのか?」 うわ、これはひどいですね・・・。洋平の静かですが冷たくトゲのある言葉が、次々と香江を

襲います。こんな事をされるくらいなら、ものをひっくり返されて怒鳴られた方がどれだけ気が楽か・・・。しかしこの洋平の容赦ない言葉責めは、夜

の夫婦の時間になっても続きます。「キッスぐらいしたのか? それとも、もっと行ったのか?」 洋平が香江を抱きながら言います。「やめて!」 

「俺がお前を実家に帰さないから、会いに来たのか? 他にも男がいただろう? ん? 同級生とか、幼友達とか、みんあお前抱きたかったろう

なぁ・・・。香江、何人ぐらいと寝たんだ? ん? 何人ぐらいと寝た!? もっと泣けよ! 泣け! いつもの悲しそうな顔が見たかったんだ。」 香江

はもう洋平の言われるまま、されるままとなっています。さらに、

 「そんなお前抱けるのは俺だけだぞ。な? 俺だけだぞ香江!」

と自慢げに言う洋平。しかし、このように一方的にされてる香江も、気持ちだけは決して負けていません。

  ──泣いてなんかいない。泣きぼくろのせいで、人には泣いているように見えるだけ。

と、内に秘めてる強い気持ちを教えてくれました。そして、再び現われるあの『黄八丈』の絵・・・。

 

次の日の朝になりました。洋平にとってはさぞかし満足した、逆に香江にとっては屈辱的な夜だったことでしょう。そんな2人が、玄関から出てきまし

た。と言っても、出かけるのは仕事に行く洋平だけですが・・・。「行ってらっしゃい。」 「うむ。鍵、閉め忘れるな。」 「はい。」 淡々とした会話も終わ

り、洋平は無表情のまま行ってしまいました。さて、夫が仕事に行った後の妻のやる事というのは、だいたい限られてきます。洗濯物を干す香江。と

その時、電話がかかってきました。受話器をとる香江。「秋葉でございます。」 すると受話器の向こうからは「あたしよあたしィ〜。」

 ものすごい鼻声が聞こえてきました。

これには私も思わず笑ってしまいました。ホントにどっから声を出しているんだ!というような凄い鼻声でした。これはきっと、松本伊代やさとう珠緒

の上を行くでしょう。でも香江のほうは、鼻声よりも電話をかけてきた相手そのものの方にビックリしました。「美紗ちゃん!?」 電話相手は香江の

学生時代からの親友、川原美紗でした。「うん。実はね、あなたにはさぁ言わないでくれって言われたんだけど、まあそう言われるとね、言わないじゃ

られないってが私の性分なのよ。分かるでしょ?」 話の本筋をなかなか言わないこの気になるような言い方に、香江は苦笑交じりに「なー

に?」と聞き返しました。「それがさ、あなたのお母さんがパートで出てるスーパーに行ってみたらね、休みだって言うじゃない。それでね、家まで行っ

てみたのよ。」 「お母さんどうかしたの?」と、少し心配そうな顔つきに変わる香江。

 「それがさ、足首捻挫しちゃって1人じゃ動けないでいるのよ。」

香江のとっさに感じた心配が当たってしまいました。「で、どうして香江ちゃんに来てもらわないの?って言ったら、こんな怪我ぐらいで娘に心配かけ

られないって。」 「うん・・・」 「お母さん遠慮してんのよ、香江ちゃんの旦那さんに。一度帰ってあげなさいよ。バスでなら1時間半で帰ってこれるで

しょ?」 「うん・・・。分かった。じゃあね。」と言って電話を切りました。

 

さっそくこの事を洋平に話す香江。帰って怪我の具合を見てあげたいのはヤマヤマですが、問題はそれを洋平が許すかどうかです。「ダメでしょう

か、一晩だけでも・・・。」 「お前のおふくろ、捻挫したぐらいで嫁に行った娘に帰ってきてほしいと言うのか?」 「母は洋平さんに気をつかって黙っ

てるんです。だから同級生の美紗ちゃんが・・・」 「美紗ちゃん使って、昔の男と会うってわけか?」 「まさか・・・。」 まったくもう、どうしてそういう事

ばっかり言うんでしょうか? さすがの香江も呆れてきました。「沢田ってあの郵便局のか? それとも別口か?」 「ウソだと思ったら美容院に電話

して下さい。美紗ちゃんそこで働いてますから。電話番号は・・・」と教えようとしますが、「俺に恥かかす気か!」と一喝します。しばらく沈黙を続ける

2人。洋平のほうが先にこの空気に絶えられなくなったのか、「タバコ買ってくる。」と言って出ていきました。

 「お母さんごめんね。こんな近くにいるのに、お正月とお盆にしか里帰りできないなんて・・・。」

すっかり落胆してしまった香江。そこへ、タバコを買いに行っていた洋平が戻ってやってきました。何だか嫌に早いなという気もしますが、とにかく戻

ってきました。「さっきの話だけどな・・・」 「もういいんです。お風呂どうぞ。下着はちゃんと洗濯機の中に入れといて下さい。」 このように香江は、

言葉も動作もまったく覇気が無くなってしまい、部屋を出ようとしますが、洋平は「香江。香江。香江。」と呼びとめ、さらに意外なことを言い出してき

ました。「お前、お母さんの様子見てこいよ。うん。」 え!?といった感じで驚く香江。洋平も、これまでに見せたことのないくらいの爽やかな笑顔を

見せています。「外歩きながら考えたんだ。捻挫ってやつは無理をしちゃいけない。歳も歳だしな。」 「いいんですか本当に!?」 あまりに思いが

けない洋平の言葉に、胸が踊りだす香江。「うん。次の土曜日にすればいい、学校が休みの日だからな。」 「じゃあ私、日曜日できるだけ早く帰っ

てきます!」 「いや、ゆっくりして来いって。日曜日は中村先生と色々話し合いもある。どうせ飲むから遅くなる。日曜日も泊まってこい。」 「二晩も

いいんですか!?」

 「これからは月に一度ぐらいは帰れるようにしよう。お前のお母さんも寂しいだろうからなぁ。」

本当に一体どういう風の吹き回しでしょうか? サスペンスドラマであるだけに、これはおそらく裏があるなという所ですが、香江にとっては母のとこ

ろに帰れるだけでも大収穫。満面の笑みで「ありがとう。」と洋平に礼を言いました。

さあ先に風呂から上がった洋平。リビングでビールを飲みながらくつろぎ、あるビデオを見ています。あるビデオとは、他でもない成人向けビデオで

あります。それを見ている時の洋平の顔は、さっきまでの爽やかなそれとは違い、香江を愚弄していた時のあの冷たい顔に戻っておりま

す。ここで、風呂から出たばかりの香江が、そんな洋平のことは特に気にすることもなく、2階へ上がろうとしました。それに気づいた洋平が呼び止

めます。「おい、お前も一緒に見ろ。」 「あ、私は・・・」と引いてしまう香江。「香江。」 「はい。」 「俺の机の上に新作がある。持ってきてくれ。」 「は

い。」 洋平の部屋に行き、頼まれたビデオを手にしようとする香江。ここでもやはり引いてしまいました・・・。

 

さあ、香江にとっては嬉しい土曜日がやってきました。美紗が言っていた通り、バスで実家へと向かう香江。しかしここはどこでしょう。港のような所

までやって来ました。香江が「お母さん。」と声をかけると、そこには漁師みたいな格好をした1人の女性がいました。この女性が香江の実母、木内

志津であります。「香江!? 香江じゃないか! どうした?」 「どうしたって・・・。お母さんこそどうしたのよ。足の方いいの?」 「大丈夫。あんたこ

そどうして知っとるの?」 少し間を置いてから、「美紗ちゃんだな。アハハハ・・・」と笑いながら言いました。「どうして娘の私に知らせてくれないの

よ?」 「こんな事ぐらいで嫁に行った娘に甘えとるわけにはいかんの。」 「強がりは私に似たのね。」 すると志津は、

 「子供が親に似るもんなの。」

と上手い返しをしてくれました。やはり志津は捻挫持ちで、ヒョコヒョコと歩くような感じでした。そんな辛そうな志津に、香江はさっそく手を差し伸べま

した。まるで二人三脚のような格好で2人はゆっくりと歩きだし、今度こそ実家の家へと向かいました。

 

ここで第1章が終了です。この第1章ではサスペンスらしいシーンは少なかったですが、次の第2章からはそれが次第に本格化していきます。まず

は、香江がある衝撃的事実を目の当たりにすることに・・・。果たしてそれは何なのでしょうか!?

第2章は、こちらです


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