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番外編

 

本編が終わりました。最後は、何とも言えぬ大どんでん返しで幕を閉じました。やはり、大罪を犯した人間はいつか必ず報いを受ける、というのを強

く感じさせた作品でした。さあこの「深夜の法廷」ですが、火サスなので、「狂った信号」の時と同じように文庫本を買ってみました。その価格、105

円。古本屋はやっぱり安いですね。ただ今回買ったこの文庫本ですが、「深夜の法廷」だけではなく、もう1作品「半分になった男」も収録されてお

り、「深夜の法廷」はこの1冊のうち前半の半分だけになっております。現在私は、時間のある時に後半のほうの「半分になった男」を読んでいるん

ですが・・・。さて、そんな話は置いといて番外編と行きましょう。「狂った信号」の時と同じように、テレビ版と文庫本の共通点、相違点を中心

いてみましたのでご覧下さい。

 

◎話の組み立てが同じ

「狂った信号」の時は話の組み立てが根本的に違ってましたが、「深夜の法廷」ではまったく同じです。テレビ版と同様に文庫本のほうも、もろく傷つ

きやすい風貌をした香江の紹介から始まり、夫・洋平の浮気現場の目撃、綿密な犯罪計画の下準備、その実行、そして最後の大どんでん返しと、

まあ多少の話の前後はありましたが、ほぼ同じように進んでいきます。なので、違う展開も期待していた私にとってはちょっと拍子抜けしましたが、

逆に原本通りにテレビ版のほうを仕上げたのは、すごいなと感じました。

 

◎準レギュラー陣の活躍

この物語では、準レギュラー的な人物が2人出ました。沢田とマリ子です。それぞれ序盤と終盤に登場して物語を少しでも活気づけてくれました。そ

して2人とも、テレビ版のほうでは大きく活躍することになります。まず沢田のほうですが、文庫本のほうでは、タバコの吸殻に気づいた洋平と気づ

かれた香江の会話の時に話題として出ただけで、沢田自身は登場してませんし、「沢田」という名前も出ておりません。それがテレビ版では、香江と

沢田が対面する場面が付け加えられ、沢田の温かさ、逆に洋平の冷たさを一層際立てるようにしていました。

☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆  本編第1章より  ☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

・・・ 「いや、こっち出張だったもんだからさ、香江ちゃんのこと思い出して探したんだよ。いや、すごい新居だな。」 「いやだ新居だなんて、もうすぐ

3年になんのよ。」 「そうか、郵便局やめて3年になるのか・・・」 「みんな元気?」 「んーまあ、退職したりね、転勤したりして・・・。あの郵便局じゃ

俺が一番の古株になっちゃったよ。」 「ウフフフ・・・」 本当に嬉しそうに話す2人。もう次々と言葉が飛び交っています。 ・・・

 

・・・ 「知らんぞ俺は。」 「結婚式にもお呼びしたじゃない。出張のついでに寄ってくださったんです。」 「それなら玄関でいい。ここまで上げることは

ない。」 「立ち話も何ですから、ちょっと上がっていただいて・・・」 「ウソ言うなよ。ちょっとだけで5本も6本もタバコ吸う奴がいるか。」 何かもう、昼

間の沢田との弾んでいた会話の時とはまるで正反対ですね。重苦しい雰囲気に包まれております。 ・・・

☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

続いてマリ子のほうですが、香江が美紗をフライパンでやってしまったあの現場だけの登場となった文庫本に対し、テレビ版ではそれ以前に出てお

ります。やはりいきなりあの現場での登場だと「誰だこの人!?」となってしまうので、それを防ぐために事前に出していたと言えるでしょう。

・・・という準レギュラー陣の2人。沢田役のほうはベンガルさん、マリ子役は若林志穂さんが演じたんですが、実は若林さんの来歴の中に「2001

年、舞台の稽古場に向かう途中に殺人事件を目撃してしまい、その精神的ショックから芸能活動を休止」とあります。似たような目撃シーンを「深夜

の法廷」で演じた7年後、今度は本当に殺人を目撃してしまう事になるとは・・・何か運命的なものを感じてしまいます。

 

◎アダルトな部分

時折見せるアダルトな面もありました。しかしこれは、テレビ版と文庫本では明らかに違います。テレビ版のほうは、時間帯のことも考えてか、そうい

ったシーンが出たのは、洋平がビデオを見ていた時と、同じく美紗がビデオを見ていて香江がやってきた時の2回だけ。そしてセリフのほうも「面白

いビデオ」、「新作」、「ひどいシーン」といった具合に、非常に抑えている言い方にしています。しかし対する文庫本のほうは、もうかなり表現も直接

的で、はっきり言って子供が見てはいけない本に近いものになっております。それがテレビ版のほうではかなり抑えた仕上がりになってい

るわけですが、相当製作者側が気をつかったように思えます。むしろ「深夜の法廷」以外のサスペンスドラマのほうが、アダルトなシーンを多用して

いるんじゃないでしょうか・・・。

 

◎睡眠薬と砒素

香江が決行した完全犯罪計画で使われた主なアイテムに、睡眠薬と砒素があります。睡眠薬を美紗と志津に、そして砒素を伴代に飲ませたわけで

すが、この両アイテムの違いというものを感じさせました。

☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆  本編第6章より  ☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

・・・ 香江は冷蔵庫からビール1本と、冷蔵庫下に隠してあったあの砒素を取り出しました。うわ!恐れていたことが・・・! とうとうこれを使う

時がやってきました! 今度は今までのような睡眠薬ではありません! 毒性の強い劇薬です! さすがにこれを使う時は、警戒心もいっそう増し

ます。 ・・・

☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

香江がコップの中に粉を入れるところまでは同じなんですが、睡眠薬の時と違って砒素を扱う時は、もう緊張感が全然違います。そして、それを飲

んでしまった時のあの伴代の苦しみようも半端じゃありませんでした。やはり砒素といえば、現実の事件をみても非常に危険なものであることが分

かります。それゆえ、一般市民が簡単に手に入れられるものではないんですが、この「深夜の法廷」では、洋平が大学時代の医学部の友達からも

らっていたという上手い設定を用意していました。

 

◎洋平の変貌ぶり

洋平の変貌ぶりも何とも言えないすごいものがありました。あんなに亭主関白だった男が、あんなにもヘタレ化してしまうとは・・・。人間こうも変わっ

てしまうんだというものを感じさせてくれました。

☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆  本編第1章より  ☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

・・・ 「キッスぐらいしたのか? それとも、もっと行ったのか?」 洋平が香江を抱きながら言います。「やめて!」 「俺がお前を実家に帰さないか

ら、会いに来たのか? 他にも男がいただろう? ん? 同級生とか、幼友達とか、みんあお前抱きたかったろうなぁ・・・。香江、何人ぐらいと寝た

んだ? ん? 何人ぐらいと寝た!? もっと泣けよ! 泣け! いつもの悲しそうな顔が見たかったんだ。」 香江はもう洋平の言われるまま、され

るままとなっています。さらに、

 「そんなお前抱けるのは俺だけだぞ。な? 俺だけだぞ香江!」

と自慢げに言う洋平。 ・・・

☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

このように完全に香江を手玉にとっていた洋平が、

 

☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆  本編第6章より  ☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

・・・ 「そんな事になったら、俺も親父もおしまいだ・・・。おしまいだ・・・。もうダメだよぉ〜!!」 「警察は呼ばないとして、どうしたらいいか考えま

しょ。」 ついに洋平は、

 「香江助けてくれよ〜! 俺どうしたらいいんだよぉ〜!!」

と、香江にしがみついてきました。 ・・・

☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

香江に助けを乞うようになり、最後には、

 

☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆  本編第7章より  ☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

・・・ 「全裸じゃないですよ。女房のパジャマ着てたんだ。女房が自分で出してきたんですよ。パジャマ探して下さい。」と、ついに泣き出す洋平。いや

いや、もうこの人の泣くシーンはすっかり見慣れました。「いい加減にしろ! 警察をなめるんじゃない!」という部下刑事の怒声ももはや耳に入って

ない洋平。そんな洋平の、この物語一番の大泣き顔が画面いっぱいに映し出されました。 ・・・

☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

と、とうとう自滅してしまいました。そんな変貌ぶりを、内藤剛志さんが見事に演じきりました。内藤さんといえば、「家なき子」での凶暴な父親役で有

名なんですが、それとだいたい同じ頃の年に放送されたこの「深夜の法廷」でも、女性にとっては引いてしまいそうな役をやっていた事になります。

ただ、「家なき子」では凶暴さを全面に出していましたが、「深夜の法廷」ではクールな感じをしっかりと出していました。

 

◎ラストバトル

香江VS美紗。実際に格闘していたわけではありませんが、最後はもうラストバトルと言っていいでしょう。誰にも気づかれない計画を考え、遂行した

香江。警察にもバレることのなかったそのからくりを、事もあろうに親友の美紗に見破られてしまいました。その一部始終も実に見ごたえ

がありましたね。最初は事件のことを口に出さずに香江から500万融通するつもりだった美紗が、どんどんと香江を追い込み、最後は証拠を掴ん

でいる事まで言って、香江にグーの音も出せないようにしました。いや、というよりもうこの勝負、証拠を掴んでいた美紗が最初から勝者でした。そし

て追いつめられた香江は、やはりというか、美紗を亡き者にすることに・・・。しかしこの時の状況が、テレビ版と文庫本でまた違います。テレビ版で

は香江がいきなり美紗をフライパンで殴打するという突然の展開に持っていったのに対し、文庫本では殺意が芽生えるところからフライパンで殴る

までの間でも、2人の会話のやりとりや、どういった方法で美紗を殺害するかという香江の心の中などを書いており、突発性というのものがありませ

ん。さらに、もう1つ違う点があります。文庫本では美紗は殺されたことになってますが、テレビ版でのほうは血を流して倒れはしますが、はっきりと

亡くなったとは言ってません。ただ、やはり話の流れからして、やはりこの世を去ったとみるのが妥当ではないでしょうか・・・? あと、テレビ版での

この時の香江は、実に軽率でした。あの綿密で計算高い香江なら、とりあえず500万出してその後のことはまた考える、あるいは美紗殺害をする

にしても、いきなりフライパンで殴るというのは、やはり到底考えられませんでした。ではなぜどうしたのか? やはりそれは、香江のプライドが

許さなかったという事ではないでしょうか・・・。しかも、相手が親友であっただけに、その思いは尚更だったと思います。まさに「昨日の友は今日の

敵」、でした。そして最後、その現場をマリ子に目撃されてしまい、もうどうする事も出来なくなってしまった香江は、その怒りを『黄八丈』にぶつけまし

た。

☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆  本編最終章より  ☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

・・・ これで完全に天から見放されてしまった香江・・・。おぼつかない足取りで、『黄八丈』の絵のところまで行きました。そして、頭のかんざしを取る

香江。そうでした。第7章で言いましたが、今の香江は和服姿でした。そしてそのかんざしで、

 『黄八丈』の女性の左目を思いっきり突き刺しました!

すごいです。もうめいっぱいの憎しみを込めて突き刺したという感じです。 ・・・

☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

こうして、秋葉香江の幸福な人生に、ついに終止符が打たれる時が訪れました・・・。

 

以上、番外編ということでまとめてみました。「狂った信号」の時と同じように、6項目を書かせてもらいました。番外編も終わり、これで紛れもなくこ

の物語とのお別れの時が来ました。では、こちらのほうもご愛読ありがとうございました。 


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