インドア派の城に戻る


番外編

 

ようやく本編も終了したことなので、番外編といきましょう。実は20年ぶりにこの「狂った信号」をテレビで見たあと、文庫本のほうも買って読んでみ

ました。最近の古本屋はいいですね。文庫本ともなると、かなり安い値段で売られています。ま、そんなことはどうでもいいんですが・・・。文庫本の第

1刷発行が、昭和51年11月15日。対するテレビ放送は、昭和59年5月15日。ということで、まず間違いなく、この文庫本のほうを元にしてテレビ

放送のほうが作られたことになります。表紙のほうはやはりというか、テレビのほうで出ていたあの赤い車が描かれてました。今回は、そんな「狂っ

た信号」のテレビ版と文庫本の共通点、相違点ついて書いてみたいと思います。

 

◎話の組み立てが違う

やはり何と言っても、これを一番に感じました。もう根本的に違います。まず先に本編で紹介したテレビ版のほうを簡単に振り返ってみると、「全体

のあらすじ等」のところで書いた文章をそのまま使わせてもらいますが、幼い子ども睦夫を無法な運転で亡くした八巻初子が、その運転していた国

枝能子と関係のあった人物に次々と復讐していき、最後に能子を殺害する、と言った組み立てになっています。話の途中に、八巻初子、国枝能子

の両名が、それぞれ山際睦子、能登邦江(ただし能登という苗字は文庫本のみ登場)という仮名を持っていることが明らかになります。

一方、文庫本のほうでは、この仮名のほうが最初から実際の登場人物として登場してきます。山際睦子が、小笠甚市、飛田辰人、室戸喜久子と順

番に始末していき、なぜそのような事件が起きるのかという疑問を思わせておいて、最後に能登邦江を殺す。そして、実は本当のターゲットがその

邦江であったこと、その影には睦夫の事故があったこと、睦子=八巻初子、邦江=国枝能子であることが判明するという、いわゆる長編推理小

になっております。文庫本ではどういう展開になるのかという面白さ、テレビ版ではどういった形で最後に能子を殺害するのかという興奮、それぞ

れ別の楽しみが味わえると言っていいでしょう。

 

◎八巻三津子の存在

テレビ版では、完全に外すことの出来ない存在である初子の姑、八巻三津子。実は、文庫本では一切出ておりません。冒頭でも言いましたよう

に、あとからテレビ版のほうが構成されたわけですが、文庫本のほうは、内容的にちょっと強烈すぎるといった所があります。テレビ版のほうで新た

に登場した三津子は、その強烈なところを和らげる存在になったと言えるんじゃないでしょうか・・・。三津子がいないと、きっと初子は一気に暴走を

していたに違いないでしょうし、またそれをことごとく上手く抑えていました。

☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆  本編第6章より  ☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

・・・ 「初子さん。あなたね、普通じゃないわ。警察だって、ちゃんと分かってくれますよ。」 出来上がったお茶を持ってきた初子。話題を変えるつも

りではないんでしょうが、ここでちょっと別のことを言い出します。「ひざ、痛みますか? 私のために悪くなってしまったんですね・・・。すいませ

ん・・・。」 まあ確かに今まで、色んなところ駆けずり回されましたからね。三津子も一息いれようとお茶を飲み始めました。「あぁ〜、おいし

い・・・。久しぶりね、初子さんが入れてくだすったお茶・・・。」 ・・・

☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

嫁姑という犬猿の仲であった初子と三津子。初子の人生において三津子は、敵でもあり、頼もしい味方でもありました。

 

◎室戸喜久子の生死

こちらも文庫本とテレビ版とで異なります。文庫本では小笠や飛田のように殺されてしまいますが、テレビ版では殺人未遂で何とか止まっておりま

す。喜久子の死を救ったのは、彼女の子供の写真。子を失う親の気持ち、親を失う子の気持ちを痛いほど知っている初子は、どうしても喜久子を

葬ることが出来ませんでした。

☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆  本編第6章より  ☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

・・・これはもう3人目の犠牲者決定か! と思いきや、ここである写真を見た初子は、とっさに手を緩めました。声を出せる状態に戻った喜久子は、

 「お願い・・・。子供がいるのよ・・・。

と、さすがにまだ声はかすれていますが、初子に訴えております。初子が見たその写真には、喜久子とその息子が仲良く写っておりました。これで

睦夫のことを思い出したのでしょうか・・・。初子はさっきまでの勢いがまるでウソのように、すっかりとその場に立ちすくんでしまいました・・・。

☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

これも視聴者側のことを考えてのことでしょうか・・・。文庫本であっさりと死んだ喜久子とは反対に、人間の暖か味というものを感じさせます。まあ、

このシーンのすぐ後、喜久子がどうなったか見せないまま、初子はその場を去ったわけですが、のちに真木刑事が能子に会いに行った時に、「室戸

さんが殺されそうになったぞ。」と言っていましたので、これでもう殺人ではなく殺人未遂だったことが明白になりました。

 

◎睦夫の好きなマンガ

テレビ版ではルパン三世ですが、文庫本ではオバQになっています。あの喜久子の車に書いた初子の落書きも同様です。これは私の予想なんです

が、調べた結果、オバケのQ太郎のテレビ放送は3期に分かれていました。そのうち、第2シリーズ放送が昭和46年9月1日〜昭和47年12月27

日、第3シリーズ放送が昭和60年4月1日〜昭和62年3月29日であって、狂った信号のテレビ版が昭和59年5月15日です。つまり、オバQの第

2シリーズ終了からだいぶ年月が経って、第3シリーズが始まる前に狂った信号が放送されたわけなので、この頃の子供たちはオバQを全然

知らなかったんじゃないかと思われます。そこで、文庫本とは違うルパン3世に変えたのではないでしょうか・・・。初子にルパン三世の絵を書か

れたあの車、持ち主である喜久子が気づいて見たらどんな顔をしていたでしょう? その辺のシーンも見てみたかったです。

 

◎遠井春子とは・・・?

テレビ版のほうでは、一度だけ登場しました。喜久子の経営するクラブ「コンコルド」のホステスでした。たった一度だけですが、睦夫を死においやっ

た一因である飛田のことを初子に教えるという、重大な任務を果たしました。

☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆  本編第4章より  ☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

・・・ 「その席にいた、春子ってホステスに聞いたんです。飛田が車の運転を習わせなければ、睦夫は死ぬことは無かったんです。高橋って弁護

をよこしたのも、あの男なんです。小笠は、あの女に車の運転を教えた教官です。どんなひどい運転でもハンコを押すんです。一度寝てやるだけ

で・・・。あの女もそうやって取ったんです。」 ・・・

☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

しかし文庫本のほうでは、飛田の葬儀に出席したり、刑事の真木と多く会話を交わしたり、それが元で容疑者の1人になったりと、すごい活躍ぶりを

見せました。文庫本では、遠井春子に限らず、たくさんの人物が登場して、話もかなり複雑になっています。分かりやすいテレビ版とは、まるで正反

対です。

 

◎最終決戦

狂った信号で絶対に欠かせないのが、ラストシーン。初子と能子の直接対決であります。もっとも、初子の一方的な勝利で、能子はあっけなく殺ら

れ、対決とまではいかない感じでしたが・・・。ここでは、その仕留め方について見てみましょう。

☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆  本編最終章より  ☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

・・・これに対し、ますますと恐怖心が増していく能子。「助けて・・・。悪かったわ・・・。許して!!」と言って立ち上がり、逃げようとしました。しかし、そ

れも無駄な抵抗にしかありません。とうとう、

 初子の包丁が能子の背中をとらえました!

「ウッ!」と声を上げる能子。さらにまた同じ箇所でしょうか、恨みを込めた初子のもう一刺しが能子の背中に決まりました。

☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

テレビ版では、上に書いた通りです。対する文庫本のほうでは、初子がなんと拳銃を使います。もっとも、射殺はしませんでした。で、どうしたかと言

うと、まず拳銃で能子のこめかみを殴って気絶させ、次に気絶した能子の手足を縛って自由を奪って室内にガスを充満させ窒息死させました。以上

のことから私が面白いなと思ったのは、テレビ版と文庫本で一見手口はまったく違いますが、2回に分けて能子を死に至らしめるという意外な

通点があったことです。それにしても私は本編でも強く言いましたが、もうちょっと能子の抵抗する姿も見てみたかったです。元々強気な性格

でしたし、この最終決戦シーンに持っていくまでのあれだけの絶妙な作りがあったわけですから・・・。しかしこれが、追いつめられた時の人間の弱さ

というものでしょうか。逆を言えば、そういった人間の心理状態をも視聴者側に伝えたかったのかもしれません。

 

以上、今回は番外編ということでまとめてみました。まあ普通番外編といえば、出演者のメーキング映像を流したり、楽屋の様子に触れたりするん

ですが、私にはそんな事できるわけありませんので、こういったものを作ってみました。では、こちらのほうもご愛読ありがとうございました。


インドア派の城に戻る