「ゴマとキナコの海岸物語」                                          Vol.1




 いつも いっしょ、「ゴマ」と「きなこ」

 仕事の関係で訪れた 小さな入り江の港町。
 白砂の浜には青く透き通る遠浅の海岸が広がり、
盛夏ともなれば海水浴の人波みで賑わう そこで、二週間を過ごした。

 日中の暑さは さほど変わらないものの 8月の終わりともなれば
照りつける日差しも かつての勢いは感じられない。

 その日の仕事は早く終わり、散歩ついでに近くにあるコンビニに向かう。
 小さな派出所を過ぎ、古びた小学校を越え、この付近の風情には
不釣合いな色合いのコンビニに着く、海でも見ながらの腹ごしらえという
目論見の下、ホテルに戻るでなく海岸に向かい歩き続けた。 

 目前に広がる海原が大きくなるにつれ、海の匂いが、すーっと入っては
ふわぁっ と抜けていく… 雲の切れ間から差し込む夕暮れの光と、
少し涼しめの夕方の風に一抹の寂しさを覚えた。

 松林を抜け防波堤のテッペンに腰を下ろす、買ってきたジュースと
サンドイッチを広げ、ウォークマンのヘッドフォンを耳に押し込んだ。
 しばらくして ふと誰かに見られているような気配を感じ、辺りを見回す。

 「猫」! それも こんな近くに… 食べ物を取り出すガサゴソという音に
つられてきたのか、スグ後にチョコンと鎮座ましましているのだった。

 よく見ると少し離れた所にもう1匹いる、2匹はじっとコチラの様子を伺っている。
人差し指を差し出してみれば、前に出てクンクンと鼻を近づけたかと思うと軽めの
ネコパンチ、そんな仕草を繰り返した後、安心したのか額を押し付けてきた。

 それ以来 仕事が終われば夕涼みがてら浜に出た。 
 2匹は ちゃんといつもの場所にいて黙って海を見ている。 

 彼らに名前を付けることにした。
黒っぽいのが “ゴマ” 、茶色いのは “キナコ”

 そう 呼ぶことにした。                            つづく…




「ゴマとキナコの海岸物語」                                          Vol.2




 ほら ゴマ、カメラ コッチだってば ^-^;


 2匹は それぞれ役割が決まっていて、物怖じしないゴマが
観光客から餌を貰い、それを臆病なキナコに分け与えている。

 ゴマは呼べば尻尾をピンと立てて付いてくるし、座っていれば膝の上で丸く
なることもある、が キナコは近くまで来ても 手を伸ばせばスッと逃げてしまう。

 それでもゴマは そんなキナコが可愛いらしく2匹はいつも一緒にいる。
 良く出来た兄と 人見知りの弟といった感じだろうか、
キナコはいつもゴマの後を歩いていた。

 翌年、しばらく行く事は無いだろうと思っていた この場所に、また仕事で
訪れることになった。 まさかとは思い海岸に行くと キジトラ模様のゴマの姿が、
見た感じ元気そうで1回り大きくなったような体は なんだか頼もしかった。

 ふと周りを見渡すもキナコの姿が見えない、それから1時間位は
その場に居ただろうか、結局キナコが現われることはなかった。

 気になって民宿のおばちゃんに聞いてみたところ、今年の春 いつものように
道路を横切ろうとしたキナコは飛び出してきた車に轢かれ、手の施しようが
無かったのだと告げられた。 普段 声を上げることのないゴマはキナコが事故に
あった場所の匂いを しきりに嗅いでは哀しげに鳴いていたんだそうだ。

 いつもゴマの後ばかり付いて おこぼれを貰っていたキナコ、
そんなキナコを足蹴にすることなく可愛がってたゴマ、
海岸に佇む 2匹はなんだか とても幸せそうだった。

 ゴマは今日も観光客に餌を貰いに浜に出る。
 彼は生きる術を知っている。 沈み行く夕日に その小さな体を
オレンジ色に染め、細めた目の先は遠く 海岸線を見つめている。

 夜の帳(とばり)が下りる頃、ゴマは独り 山の方へ帰っていった。

 今も ゴマは夕日を見ているのかな、

 あの真赤に落ちていく夕日を。