2匹は それぞれ役割が決まっていて、物怖じしないゴマが
観光客から餌を貰い、それを臆病なキナコに分け与えている。
ゴマは呼べば尻尾をピンと立てて付いてくるし、座っていれば膝の上で丸く
なることもある、が キナコは近くまで来ても 手を伸ばせばスッと逃げてしまう。
それでもゴマは そんなキナコが可愛いらしく2匹はいつも一緒にいる。
良く出来た兄と 人見知りの弟といった感じだろうか、
キナコはいつもゴマの後を歩いていた。
翌年、しばらく行く事は無いだろうと思っていた この場所に、また仕事で
訪れることになった。 まさかとは思い海岸に行くと キジトラ模様のゴマの姿が、
見た感じ元気そうで1回り大きくなったような体は なんだか頼もしかった。
ふと周りを見渡すもキナコの姿が見えない、それから1時間位は
その場に居ただろうか、結局キナコが現われることはなかった。
気になって民宿のおばちゃんに聞いてみたところ、今年の春 いつものように
道路を横切ろうとしたキナコは飛び出してきた車に轢かれ、手の施しようが
無かったのだと告げられた。 普段 声を上げることのないゴマはキナコが事故に
あった場所の匂いを しきりに嗅いでは哀しげに鳴いていたんだそうだ。
いつもゴマの後ばかり付いて おこぼれを貰っていたキナコ、
そんなキナコを足蹴にすることなく可愛がってたゴマ、
海岸に佇む 2匹はなんだか とても幸せそうだった。
ゴマは今日も観光客に餌を貰いに浜に出る。
彼は生きる術を知っている。 沈み行く夕日に その小さな体を
オレンジ色に染め、細めた目の先は遠く 海岸線を見つめている。
夜の帳(とばり)が下りる頃、ゴマは独り 山の方へ帰っていった。
今も ゴマは夕日を見ているのかな、
あの真赤に落ちていく夕日を。
|