流転ー鉄道擬人化の試み
ある木造客車の浮沈



あたしの名前はナハ22000。生まれて間もなく優等列車に起用されてさ、憧れの18900さんと手を繋いで東海道を上下したものさ。
そりゃああたしだって若かったし、胴がスラっと伸びて大直径動輪を履いた王者に首ったけだったんだよ。



でもねえ、数年もするとあたしゃ木造車体の悲しさ、ああ都落ちさね、落ちた先では不格好にも程がある熊みたいなヤツと走る事になっちまってさ、毎日泣き暮らしたもんさ。東海道にはもっと新しいオハ28400なんて半鐘泥棒みたいなヤツが現れてねえ、18900さんも満更じゃなさそうな顔してさ、C51なんて名前を変えちまって、あたしの事なんか忘れちまった風でさ。



その内戦争が始まって、C51は相も変わらず東海道で、スラっとした32系なんてハイカラと付き合い出したよ、もう歳なのにゴテゴテ配管やらデフやら取り付けてさ、傍目にもみっともなかったねえ。あたしかい? あたしはもう落ちる所まで落ちたさ。素性の知れない改造機に牽かれてさあ。
もう、思い出すんだよ、あの若かった頃をさ。あたしゃもう年増で東海道の舞台には上がれないし、あの美しかったC51さんともう一度手を組んで目の回るような速さで走るなんて事あ、もう叶わない夢なんだなあって泣き暮らしてたのさ。



ある日あたしゃ工場へ連れて行かれてねえ、てっきり解体されると思ってたんだ、それでも良いかどうせ苦界に落ちた身だ。覚悟を決めていたらさあ、聞いておくれよそうじゃなかったんだよ。台車台枠だけ使ってあたしはスラっと胴の延びた、今風の真新しい車体を手に入れたのさ。



その時分C51は東海道を落ちて脇往還で、冴えない客車と手を組んでいたけどねえ、まあお世辞にも綺麗とは言えなかったね、だってさ、あたしゃC51の一番美しかった時の事を知ってんだ、他の客車とは訳が違うんだよ。そして今やあたしゃ真っ新な車体を手に入れて、ドサ周りの古い31系なんかを追い立てて行ったのさ。



それで目出度く元の鞘さ。C51も老いぼれてあちこちガタが来ちまって、あちこち継ぎを当てて後輩の部品と取り換えたりしてさ、部品だけ変えたって若返りなんざしやしないんだって事さ。あの綺麗な甲高い汽笛も馬が嘶くようなみっともない音になっててさあ。でもまた一緒に走れるんだ、昔ほど嬉しくはないけどねえ。まあ腐れ縁ってやつさ。