Tゲージのレイアウトを友の屍を乗り越えてでも作る





昨今話題の、自走する鉄道模型の既製品としては世界最小のTゲージ。
これを見逃す手はあるめぇ、ってんで購入を決定したのですが、果たして何処で売っているのか、皆目見当が付きません。
ようやく今年のJAM会場で一通りのブツをゲット。早速持ち帰って試験を繰り返しました。

結果は大方の批評通りで、もう一つ発進、停止が安定しません。メーカーによれば1M1Tを推奨しているようで、JAM会場でデモ走行していた103系は6連(4M2T)で、かなり低速で安定した走行を見せていました。

ではどうするか?
最初から駅での着発をスルーして、駅間の風景に特化すれば当面は見られるものになるのではないだろうか?
風景の中を走る列車を見る為には、丁度いいサイズでしょう。なのでレイアウトは作るが、駅はパスと言うのが基本方針となりました。





ったって、与えられた103系をそのまんま走らせて喜んでいる程ヤワじゃぁない。問題はこれをどう改造してくれようかと言う事です。
103系の車体をなるべく利用し、と言う事は切妻、20メートル、グロベン装備の車輌なら何でも行けそうですね。73系とかキハ30とか。
以前こさえたZゲージの客車と同じく「ハリボテ」で側面を処理し、屋根や走行装置には一切手をつけないお気楽改造でも、このサイズなら充分。
上の写真は、そのZゲージの客車を描画した紙の隅っこにTの車体を印刷したもので、大きさの違いがはっきりと判ります。






改造中。モハ103の周囲に切り出した材料を並べた所。原型モハ72だったと思いますが、何分このサイズなんでカメラの解像度が追い付かない。
103系の車体は、クーラーを外して台座を削った以外、何も加工していません。ただ紙を木工用ボンドで貼っただけ。



実は、ロクサン型を改造するに当って念頭にあったのは「開発前の横浜線風」レイアウトでした。なのでレイアウト全面を覆う水田や雑木林と、進む団地開発がシーナリーのテーマになる予定でした。
従って車輌と平行して、ストラクチャーもペイントツールで描き出し、例によって質より量、数は力だ、でおなじみのハリボテでやっつけようってんで、こんな絵も描いてみました。



さて、その内に車輌が出来てくる、団地も出来た、イメージを掴む為にちょっと並べて見たのがこの写真です。



サイズはA3。しかしどうも物足りません。先ほども書いたように「風景の中を走る列車」には程遠いものがあります。
そもそも小さいスケールの模型こそ、1ランク上のサイズのレイアウトが作れる広さに、その分雄大な景色を作り、ゆったりと走らせると言うのが私の持論です。極論すればHOのレイアウトが作れる畳1枚分のスペースに、Tスケールの神田・御茶ノ水や四ツ谷・市ヶ谷を作りたい、ってのが私の理想です。

家中どこを探してもそんなスペースのある筈もなく。
そこで我が変節漢、さっさと前言を撤回し、せめてはA3の二枚分のスペースで何が出来るかをやって見る事にしました。

DIYで写真パネルと地形造成用のスチロールパネルを買い占め、その足で模型屋へすっ飛んで行って、ありったけのレールを買占め、値上がりを待って高値で売り飛ばして暴利を貪り、笑いの止まらない生活をしようかって言うとそう言う事でもなく、普通に家に帰って複線エンドレスを敷き、イメージを掴んで見ました。



これはある程度地形造成が終わった段階です。5ミリ厚のスチロール板を等高線状に切って張り合わせ、100円ショップで売っていた「木粉粘土」で土手、山、道路、畦道を大雑把に表現し、上から水性のスプレーで真っ茶っ茶に塗った状態です。
この時点では未だ横浜線への夢を捨てきれず、手前の丘は団地に、水田の向こうは旧街道に沿った古い町並みにする予定でした。それが、



初心貫徹等と言う言葉は薬にする程も持ち合わせない私の事。作っている内にレイアウトのテーマが変わって来るなんて事は朝飯代わりです。手前にあった丘は茶畑に、鄙びた旧街道は設定上「国道1号線」となりました。東海道中線のイメージになっちゃった。



もう、なっちゃったもんは仕方が無い。ロクサン型は似合わないので、急遽80系を作る事にしました。

画材は自分のHPから取って来れば良いので不便は無いんですが、問題は製作法です。切妻のロクサンと違って、いわゆる「湘南顔」をどう表現するか。あ~あ、写真に撮っておけば良かった。103系は運転台ドアの後ろの線で切断して側面を貼り、正面は紙粘土でやっつけました。100円ショップでオレンジとピンクの紙粘土を買って来て、「黄かん色」になるまで混ぜ合わせ続け、時折水で湿らせながら時計ドライバーと爪楊枝で何とか出来上がり。1正面1時間で完成しました。腰板と屋根肩の緑部分はマジックです。



そうそう、製作法や素材についてなにも言及していませんでした。

○樹木:エコーモデルのスーパージオラマツリーの先端部分。1ケースと根気さえあれば大森林が出来上がります。

○日本家屋:1/450の松山城(童友社)のパーツを利用。これも800円かそこらでちょいとした集落が出来ます。



○工場:唯一の工場は製茶工場と言う設定で、ハセガワの1/700軍需工場の民需転用です。軍艦モデル関連のストラクチャは案外利用出来る物が多く、タンクや兵舎、格納庫等はうってつけでしょう。



○水田:N用のレイアウトマットをそのまま。色が生っぽいので、ポスターカラーの黄色をドライブラシで塗り付けています。水田は予め型紙を取っておいて、マットをその大きさに切れば能率が上がります。

○茶畑:木工用ボンドを厚塗りして乾く前にカラーパウダーをまぶし、爪楊枝の先端で丹念にうねを付けて行くと茶畑になります。最初はコールテン生地を使おうかと思ったのですが、大きすぎてパス。

○草地は、同じく厚塗りしたボンドの所々にスポンジ粒を貼り付け、その上からより細かいターフをこれでもか、と振りまきます。ある程度乾いたら、2000㏄の肺活量に物を言わせて吹き飛ばせば完成。顔面ターフまみれ。花粉用ゴーグルの使用を薦めます。





○水面:ポスターカラーの緑と青で下塗りをした上に木工用ボンドを何度も塗り重ねると言う例の技法。このサイズでは上空から眺める事が多いので、光に反射してギラリと輝く水面は見ていて気持ちの良いものです。



○路面・未舗装路:舗装道路は、厚手の黄ボール紙を敷いた上に白系の紙粘土を盛り、白のポスターカラーで着色後、乾かない内に薄めたグレーのポスターカラーで轍の間をそっとなぞりました。未舗装部分は、下塗りの茶色の面に「木節粘土(非常に粒子が細かい)」を撒いて指の腹で強引に擦った結果、良い具合に。



今仕掛かり中なのが、EF58牽引の客車列車です。



有名な所では「つばめ」「はと」、或いは20系寝台列車でも、と最初は思いましたがやはりパス。時間帯が極限される列車はこの際不要です。牽引されるのは青帯の並ロを併結した43系や10系と言った所になるでしょう。



折角の製品に刃を当てて切断したりヤスったりするのは、苦心して作り出した栄進堂さんに申し訳無いと思いながらも、こんな楽しい素材を提供してくれる同社の努力に報いたいと言う矛盾は、またお気楽モデラーの血がそう言わせるのであります。