俺々架空鉄道探訪

俺々積羽電鉄一つ話  「盛夏の旅」







静かな夏の夕暮れ。

夕映えの空に蝙蝠が音もなく飛び交う裏通りを歩く。

明るい表通りと違って、何処となく夕闇が白っぽく沈んでいると見えるのは屋敷と店舗が半々なせいなのだろう。

そんな街で遅くまで開いている古本屋を見かけた。

何気なしに店頭を見ると、長らく探し求めていた岩波の「ブロック全集」があった。

店の親爺に聞くと、夜は8時まで開けていると言う。

表へ夕食を摂りに行く所だったので、ケースに入った分厚い本は邪魔と言えば邪魔である。私は帰りに立ち寄る事にした。


そして。


食事に入った居酒屋で地元の若者グループと意気投合し、勢いで与糸駅近くのカラオケへ皆で雪崩れ込み、気が付いたら9時をとうに回っていた。

与糸9時26分の積羽行き最終に乗って駅前のホテルへ戻る。


さて、「ブロック全集」が頭から離れない。


明日は、9時56分発の関奥線客車列車で積羽を立つ予定であったが、彼の古本屋は10時開店だ。間に合わない。眠れないまま時刻表を繰る。

-そうだ、10時45分の特急に乗って客レを追いかけよう。それなら間に合う。


翌朝。


ホテルの一階で朝食を摂った後、積羽電の乗り場へ向かう。

8時42分発で奥館へ行き、折り返して与糸で降りよう。古本屋へ寄ってから積羽駅まで歩けば、特急には楽に間に合うだろう。

探し求めた「ブロック全集」が今ここで手に入る。その期待感を伴として、もう一度奥館までの車窓を楽しもう。


ホテルを出れば気持ち良く晴れた夏空!