俺々架空鉄道探訪

俺々愛甲電軌一つ話  「便利屋M君」







「だからほら、皆ふざけてないでさ、買い出し行くよ、行かないの?」

「だってさ、だってコマ美の顔シュークリームみたいになっちゃってんじゃん」

「シュークリームじゃねーよ、ちょっとダイエットに失敗しただけでしょもう!」

「ちょ、笑っちゃ可哀そうだよコマ美ごめんね、大丈・・・ブッ」

「ヤマ、あんたに笑われたくないって言ってるよ」

「いや、あた、あたしヤマもそうだけど、トモ、あんたもあたしの事笑う資格ないじゃん」

「そうだけどさ、そうだけどさ、何、何で? 何をどう食っちゃ寝したらそうなれるわけ?」

「ちょっとさ、だからさ、もうコラおめーら!」

「・・・ハイ」

「買い出し行くんでしょ? 遠征は来週だよ? 今日しか時間取れないんだから、ね? 判ったら早く分担決めて、行こうよ町へ」

「ハーイハイハイ、分担決めまーす。じゃあ、シュークリーム担と・・・ブッ」

「あ? そりゃあたしの事かい」

「アッ、あ痛たたた、痛い痛い!」

「どうしたのヤマ。お腹痛いの? 妊娠したの?」

「バーッキャロー、妊娠しねーよ! 笑い過ぎて腹筋釣っただよ」

「釣っただよ・・・どこ人だお前は・・・」

「シュークリーム・・・笑える・・・」

「釣っただよって、イモかヤマは!」

「・・・コマ美、顔がシュークリー・・・」

「しつけーぞトモお、マミリもよだれ垂らして笑ってんじゃねーよ」

「・・・だって、おかしいもん」

「おーい、こらー、女共おー、聞いてるかあー、買い出しだぞおー」

「ああ、もうダメ、あたしダメ。笑い過ぎて漏らしたかも」

「汚ねーなマミリい、部室にシミ作るなよ」

「だからさ、М君さ、あたしたち全員重症だからさ、君買い出し行って来てよ。あ、大丈夫大丈夫、М君男の子でしょ?」


夏休みを利用して我が登山部は八ヶ岳縦走を計画していた。3年生は全員女子。2年生は俺一人。ついでに男子も俺一人だ。

考えたくない事だが、真面目に縦走するのは顧問と俺の2人だけで、3年生のお馬鹿さん達は、その間清里かどっかで遊び呆けているような気がしてならない。登山だと言うのにスカート穿いて来るような手合いだからだ。

結局、買い出しは俺が一人で行く事になった。女子高の女子とはこうなってしまうモノか、と最初は腹も立ったが、もう最近は状況に馴染んでいる。情けないと思う事もない。


「いよう、М山あ、どうした補修か?」


駅まで近道をしようとテニスコート脇を歩いていたら、親友のK崎に声を掛けられた。


「をれ、K崎、何今日?」

「をを? 俺補修だよ。終わったぜ。何か腹減んねえか? 市役所に食い行かねえ?」

「良いねえ、大盛りカツカレーか?」

「決まってんだろ」


俺はK崎と連れ立って学校を抜け出し、東商前から電車に乗った。


「M山、お前夏休みどっか行くの?」

「行きてえなあ」

「どこ?」

「山部の先輩共と一緒じゃなきゃどこだって良い」

「お前、それ三無主義だぞ」

「どこでも良い、何でも良い・・・後何だっけ?」

「どうでも良い。でもよ、お前良く耐えてるよな、言っちゃ悪ぃけどよ、お前んとこの先輩、性質悪過ぎるだろ」

「馴れちまえばどおって事無えよ。悪い人たちじゃ無えしよ、ただ無害で無責任なんだよな」

「をれ? 何だよ妙に庇うな。さては誰か良い人がいるのか? ええ? 隠すんじゃねえぞおい」

「この暑いのに縁起でもねえ事言うなよ」


蒸し暑い電車に揺られて愛甲厚木に着くと、俺とK崎はかったるそうに炎天下を歩いて市役所へ向かった。

一般開放されている市役所の庁舎食堂で400円の大盛りカツカレーを平らげ、近くのゲームセンターで「ギャラクシアン」に興じた。


「お前、この後どうする? ウチ寄ってかねえか?」

「いやいい。もうこんな時間になっちまったよ、買い出ししてかないと」

「お前さあ、いい加減にしろよ。良いじゃねえか、放っておけよ。買い物なんて女の仕事だぞ」

「でも行くよ。俺が買って行かなきゃあいつら、遠征に出られないもんな。あいつら3年だろ。もうこれが最後じゃん」

「お前は絶対女で苦労するな。うん絶対するな」

「バーカ、もうしてるよ。じゃあな」


スーパーを二か所回って、一先ず必要な物は全部揃えた。さっき先輩共が盛り上がっていた「シュークリーム」を買って帰ろうかとも思ったが、思っただけでムカついたのでそれは止めた。

両手にレジ袋を4つも5つも提げて、ようやく愛甲厚木駅まで戻った。すると、改札前に見たような女共がたむろして何だかワイワイ盛り上がっている。


「もう、遅かったじゃん。心配したんだよ」

「ねえ、シュークリーム買ってくれた?」

「しつっこいんだよ、ヤマあ」

「だってこの顔の膨らみ方、異常だよね」

「ねえねえ、顔の膨らみを胸に持ってけないモンじゃろか?」

「バッカじゃねえのお、変態マミリ。略してマヘ」

「トモは変態通り越してビョーキじゃん、略してトモビ」


先輩共は荷物を持ってくれた。電車に乗った時点では、俺は相変わらず「こいつら」にムカついていたが、「こいつら」の仲間でいる事に居心地の良さも感じ始めていた。そう感じた途端、この先輩共と一緒に行動出来るのは、この夏までだと言う事に思い至った。

残された時間を、このポンコツ女共と楽しく過ごしたい、その思いが浮かぶまでにそう時間は掛からなかった。


「M君、背中汗すごい。買い物のご褒美にこれ掛けたげるね」


シューッ、背中に物凄い冷感が走る。誰かが8×4を俺の背中に吹いたらしい。


「だありゃーっ、このクソ女共おっ」


電車に乗ってから降りるまでの間僅か10分足らずの間に、彼女達の名称はこのように変化した。

先輩 → こいつら → ポンコツ女 → クソ女