模型架鉄-打越




模型架鉄一つ話-打越の事-




打越と言うのは村と村の境界となるような小さな小さな峠の事です。

全国どこでも通用する言葉かどうか判りませんが、僕の在所ではそう言いました。


僕が小さい頃、打越を越えて村にやって来るのは薬売りであり飴屋でした。 打越の向こうは知らない異世界であって、彼らは打越の向こうからやって来てお世辞を言っては幾らかの小銭を受け取り、やがて異世界へと戻って行く存在でした。


その打越を小さな蒸気機関車がせわしなく音と煙を立てながら、陰鬱な夏を走り来り、そして走り去ります。何時の日でしたか、異世界へ走り去って再び来る事はなくなりました。