激情と亡失
時雨の墓地の石畳、南天樹の下で和田先輩がうつ伏せに倒れていたので、見苦しくないように手近にあった縄でスカートの裾を縛る。そして枕を頭にあてがうと、私は一仕事した気分になってその場を立ち去る。
秋晴れの空。見覚えの無い農家の庭で、私は内心自分を責めながら恐ろしい勢いで餅を搗いている。どんなに激しく餅をついても頭から和田先輩の事が消えない。どころか餅を搗くごとに彼女の存在が大きくなる。その内に臼が割れてしまったので、私は杵だけを持って墓地へ急ぐ。
和田先輩が倒れていた所にあった南天樹を探すが、時雨の墓地には何処にも南天樹は生えていない。ふと気配を感じて墓地に隣接した疎林を見ると、和田先輩は一人長身を折りたたむようにして、時雨に濡れながらカレーを作っている。時折彼女は目をこすり、鼻をすすっている。そして寂しそうな横顔をしている。
その内に和田先輩の姿が見る間に消えて行き、あっと思った時には疎林の中に「例の不味いカレー」だけが遺されて、湯気を立てている。
彼女の実家に電話をしようとして、止める。