討論実験







広い教室のような所で、椅子に座ってボンヤリしていた。

私はこれから行われる「討論法に関する」公開実験の被験者の一人であり、既に実験チーム分けが済んでいて、後は開始を待つばかりであると言う状況だった。

その実験とは、参加者が討論をのんべんだらりと行う従来の方式と、「各参加者がそれぞれの個性に応じた『ポジション』に付いて討論を行う」方式のどちらがより実りの多い議論が出来るか、と言うものであった。

私は「ポジショニング」するチームに属し、その中でも重要な「ブレーカー」を任されていた。

ポジションは全部で4つあり、

①討論開始時に主旨・目的をはっきりさせる人:トースター(2~3人)

②トースターによって示されたテーマについて「内部的」な討議をする人:チェーサー(5~6人)

③ある程度話が煮詰まったら、それを「外部の視点」から徹底的にツッコミを入れる人:ブレーカー(私)

④一旦ブレーカーによってぶっ壊された話しを巧く修復し、最終的な結論に持っていく人:リビルダー(1人)

このような守備配置で討論をすればより速くより充実した成果が出るのだと、主催者である教授のような人物が観客にそう説明していた。説明が済むと早速実験が開始された。ある程度話がまとまってからでないと私の出番が無いので嫌でも黙って見ている事になる。

ポジション分けしないチームを見ているとそれぞれが丸で勝手な事を喚き合って、収拾が付かない有様だったのだが、ポジション分けした私のチームもこれまた目を覆うばかりの大混乱振りで、数人のチェーサーにトースターまで加わって舌戦の最中だった。誰も私の方にパスを出そうとしない。

リビルダー役の師匠が私の横に腰掛けて、


A:

「あぁ、これじゃぁ仕様が無ぇやな。おめぇさんも飽きたろう」

「へぇ、ご隠居さんの前ですけど、こうも退屈じゃぁねぇ」

「無理も無ぇ、『トースター』のおかげで…」


リビルダー役の師匠がそう言った途端、そこにいた私を含めた全員が座布団に座り直すと観客の方に低頭し、


「…『ブレーカー』も落ちます…『浅井川』と言うお笑いでございました」


笑い、拍手、幕。


B:

「あぁ、これじゃぁ仕様が無ぇやな。おめぇさんも飽きたろう」

「どうもこうもありやせんや。これじゃ丸で宴会だ」

「無理も無ぇ、宴会には…」


リビルダー役の師匠がそう言った途端、そこにいた私を含めた全員が座布団に座り直すと観客の方に低頭し、


「…『ブレーカー(無礼講)』が付き物です…『浅井川』と言うお笑いでございました」


笑い、拍手、幕。