限界斜面







恐ろしい断崖を辛うじて走っている林道。

道の上部で大崩落が起きたらしく、道は途中で完全に土砂に埋まっていた。いや埋まっている等と言う生易しいものでは無く、傾斜60度位の平滑な砂利の斜面と化していて、斜面はそのまま谷底まで続いている。
その崩れやすい斜面に腰を降ろした私は、滑落しないように両足を踏ん張り、恐ろしさから来る喉の渇きに悩みながら手紙を読んでいた。

それは下関に住む小学2年生の男の子からの手紙で、どうやら5年生の女子を好きになってしまったんだがどうしたら良いかと言う相談だった。

真面目な相談なのでこちらも真面目に答えようと思うのだが、何か考える度に足元の砂礫が崩れ、ハッとして足の方を見ると、そこには見てはいけないモノ、詰り直下百メートルはあろうかと言う大峡谷の底が口を開けている。

…今は昔と違って年齢の差はそれ程気にしない時代になって来ているそもそも…落ち、落ちる…2年生と5年生では3歳しか違わないではないかだからもっと大人になれば君も気にならなくなると思うよそれよりも…ワッ…君が自分の稼ぎで彼女を食わして行くだけの自信があるかどうかがだね…あ…あ…ダメだこれはダメだいや君の考え方がダメなんじゃなくてね…あ

そこまで答えた所で遂にバランスは崩れ、巨大な砂利の滑り台と化した斜面を猛烈なスピードで滑り落ちて行き、落ちた勢いで谷底に敷かれてあった体育用のマットで空転2回転、そして着地のポーズを決めると非常に高い得点が付いた。どうやら金メダルは確実だそうだ。