月夜に口笛







全くあの馬鹿野郎め、早く口笛を止めれば良いのに。

心でそう毒づきながらも、その人が心配で気が気ではなかった。


月明かりの草原のような所で、人影が一つ。「かもめの水兵さん」を口笛で吹いていた。早く口笛を止めないと蛇が集まって来るので、私はやきもきしていた。勿論沢山の蛇が現れたら私は腰を抜かして逃げる筈だが、助けてやれないまでも、せめて蛇の嫌いなナメクジを捕まえて、その人の周りに撒いといてやる位の事はする積りだった。

心配しながらメロディを追っていると、口笛は「かもめの水兵さん」ではなく「ハンガリー行進曲」だった。だからハンガリー軍が助けに来るかも知れない。しかし彼等が目にする物は、胴体と言わず首と言わず、沢山の蛇に締め上げられたその人の変わり果てた姿であろう事は火を見るより明らかだった。

木の葉を裏返してナメクジを探していると、急に口笛が弱く細くなり、その人影はゆっくり倒れた。そしてすぐに口笛は消えた。



地下駐車場のような所で、ロバの着ぐるみを着た人にその顛末を説明していた。


「で、そいつは死んじまったのかい」

「いや、判らねぇ。確かめる事も出来なかったんだ」

「蛇は出てきたのかい」

「そいつも判らねぇ」

「じゃあ、ハンガリーの奴等は現れたのか」

「それも判らねぇ」

「一つだけ判る事があるぜ、おめぇは役立たずって事よ」


そう言うと着ぐるみの人は急にマシンガンを構え、私の鼻先に銃口を突き付けた。空いた片方の手で着ぐるみのロバの頭を取ると、中からロバート・デ・ニーロが出て来た。そして冷たい笑みを浮かべると銃口をチャッと外し、


「どうよ?」


と尋ねて来た。

どうよ、と訊かれて困惑したが、何だか急に照れ臭くなり、取敢えず握手をして貰った。