オルグ







組合のオルグに参加するように言われたので夕方の仕事をさっさと済ませ、会場へ向かった。

会場は高そうな寿司屋だった。泣きはらしたような顔をした若い店員に案内されて2階へ上がると、新入社員だった頃世話になった上司が「ヨッ、同志書記長!」と書かれたジョークたすきを掛けて、真っ赤な顔をして笑いながら「早く上がって来い、早く輪に入れ」と手招きをしていた。

会場の広間では、見覚えのある社員達が輪になってジェンカを踊っていた。既に全員激しく酔いが回り、辺りは哄笑と怒号、座布団の飛び交う狂乱の巷と化していた。

床の間を見るとビゼーの肖像画が飾ってあったので、私は蛮声を張り上げて「アルルの女」の猥褻な替え歌を歌うと、やがて数人がそれに唱和し、程なく全員の合唱になった。元上司の書記長が、どこか壊れたように笑いながら、


「お前、それビゼーじゃない、それビゼーじゃない。良く見ろそれクラーク博士だ」


とだけ言うと、蛇のように畳を這いながら輪に中に入って行った。

どんなに時間が経ってもオルグらしい事は始まらず、どんなに待っても寿司は一かけらも出て来なかった。