おもちゃのまち







水道橋で働いていた頃の同僚にOさんと言う善良なおじさんがいた。


そのOさんと休憩時間に社食でばったり会うと、彼は定期を取り出して私に見せて来た。


「見てよこれ。今度引越した先の最寄り駅なんだけどさ」


見ると『おもちゃのまち~飯田橋』と書かれている。


「ほぉ、『おもちゃのまち』ですか」


見慣れたOさんの顎に二本の縦線が入っている事にうっすらと気が付いた。


「子供がデカくなって手狭だから思い切ったんだけどさ…」


等と喋る時は、下顎だけがマリオネットの人形のようにパカパカと開く。何だか面白くなって来て、何故か手に持っていたリモコンのボタンやらレバーやらを出鱈目に押したり引いたりぶん回したりしているとOさんは、


「自己資金がどうだこうだ」


等と喋りつつ、恐ろしい勢いで首を左右に振りながら、猛烈に後ろ向きに行進して行き、食堂の壁にぶち当たったと思ったらその場でジャンプを始めた。


「と言って今更都内で良い物件なんかさぁ、無いもんねぇ」


言いつつ両手を「小さくならえ」にして片足を軸にし、その場でカタカタと回転を始めた。私は笑い過ぎて呼吸すら覚束なくなり、その場に突っ伏しながらリモコンを手放そうとはしなかった。