夏の雨は馬が降らあ







山中に送電線を渡す鉄塔を建てる工事。私はその工事を請け負う現場監督だった。

私が束ねる男達(若干女子供も)はそれぞれペットボトル一杯のミネラルウォーターを持ち、工具、道具の類を手にする者は誰もいないばかりか、作業服を着ている者すら誰もいない。


(まぁ、アレが来るから良いか)


私は呑気にそう考え、工事現場になる尾根に上るとそこら辺の木を切り倒す作業に取り掛かった。早く場所を空けておかないとアレが来てしまうので大いに焦っていた。

老若男女ごった煮となった尾根の作業現場で人波に紛れて一人ワタワタしていると、とうとうアレがやって来てしまった。

数機の黄色いヘリコプターが低空で停止して、鉄塔の材料となる鉄材を「ドサドサ」と落として飛び去る。後から遅れてやって来た薄緑色のヘリコプターからは数頭の馬を「ドサドサ」と落とした。馬は尾根の柔らかい地面に半分めり込むと、何事も無かったように地中から起き上がって麓へ走って行こうとする。


(あ、アレが逃げて行く)


足場の悪い尾根を数十メートル追いかけて見たが、所詮馬の足には敵わない。立ち止まって「馬笛」をブーブーと吹くが、既に視界には一頭の馬も見えなかった。

止むを得ず、尾根に穴を掘って、そこらじゅうに散らばった鉄材を埋める事にした。何故ならば、


①馬が逃げてしまったので作業にならない。
②材料を埋めておかないと、台風が来た時に吹き飛ばされてしまう。


尾根に細長い穴を掘っている私の周りで、大勢の人々が水を飲みながら談笑していた。早く鉄材を埋めて周りに花を植え(そうしないとどこに埋めたか判らなくなる)、作業を終わらせて皆の話の輪に入りたい、水を飲みたいと願った。