流される
瑞々しい山間から急に平地へ踊り出た大河。
暑くて良く晴れた日、川の堤を降りて来た私は、浅そうなその川を渡ろうとしていた。
上流から何か棒のような物が流れて来たので見ると、それは仰向けになった女だった。どうも知っている人のようで、声を掛けようかどうしようか迷っている間に、向こうの方で私に気が付いたらしい。
「よーお、久し振りぃ」
「何流されてんの?」
「あたし、引っ越してさぁ」
と言うと山の方を指差した。
「買い物一つ行くんでも、一々車出すの面倒じゃん?」
成る程、だから川を流されて行く方が便利なのだな、と理解した。
「また遊びおいでよ」
「おお、旦那によろしく言っといてな」
そして彼女は次第に見えなくなった。
私は急に用事を思い出し、堤を登って河原を後にした。