モージ様
それはそれは恐ろしい、口にするのも恐ろしい「モージ様」と言う、人だか獣だか物だか現象だか形而上の観念だかを、私は大変に恐れていた。
人としてどうせ一度は死ぬのであれば、せめては「モージ様」の餌食になる羽目にだけは遭いたくないものだと神仏に祈る程だった。
夜中、モージ様に捕食される夢を見て汗びっしょりで飛び起き、時間も弁えず友人に電話した。
「Nさんスか? あどうも、お久し振りです。はぁ? 『モージ様』ですか。それはNさんがですね、本当は『モーロ(MOLO)』と打たなきゃいけない所を、ミスタイプで『モージ(MOJI)』って打っちゃったって、Nさん自分でそう言ってたじゃないスか」
「あぁ~」
「あぁ~、じゃないっスよ、覚えといて下さいよもう」
そうだ、あれは自分のミスタイプだったのだ。だから「モージ様」など怖くも何ともないのだ。そう思うと急に気が楽になり、晴れやかな気分になった。