ミクロマンの歌
私はワイドショーの生コマーシャルに出演し、そこで大勢の子供達を前にして、実演販売をしていた。
販売しているモノは、両手に余る大きさの岩石らしき物体で、「ミクロマン秘密基地」と言うシロモノだった。道理で少年達が異様なテンションで集まって来ている訳だ。
口上を述べ立て、区切りが付くごとに脇に置いてあったティンパニを自分で「デロンデロン」と叩いたりする。手前にいた一人の少年が持っていたミクロマン人形を借りて、その岩石のような物体のどこかに「ウニュウ」とネジ込むと、「トコロテンの法則」によって岩石の他の所から「バージョンアップされたミクロマン」が、これまた「ウニュウ」と出て来る、そんな商品だった。
それを見ていた少年達のヒステリックな反応に、「当りだ、これは売れる」と、心中ニヤリとした。
「僕のも」「僕のも」
「ウキーッ」となっている少年達をなだめ、次に手近な少年の差し出したミクロマンを再び岩石にネジ込むと、思いの外今度は「頬被り」をしたミクロマンが出て来た。
その頬被りに見覚えがあった私は、先程のバージョンアップ版ミクロマンと頬被りミクロマンを両手で持って、
「ご新造さんへ、おかみさんへ、お富さんへ、いやさぁお富ぃ、久し振りだぁなぁ」
「そう言うお前は、与三さんかえ」
「格子造りの囲いもの、死んだと思ったお富とは、お釈迦さぁでも、ぁ気がつくめえ」
「ひぇぇ~」
と調子に乗ってやっていたら、何時の間にか周囲はスタジオではなく温泉の大浴場になっていて、私と大勢の少年達が肩まで湯に漬かっていた。私は相変わらずミクロマンを一体づつ持った両手を高く上げて左右に振りながら、
「さぁ、皆で一緒にミクロマンの歌を歌おう! 粋な黒塀見越しの松に…」
子供達と大合唱。