通り過ぎるものたち
狭い歩道の向こうから、保母さんに先導された子供達が、まるで「道路に豆を撒いた」かのようにやって来た。
先頭の若い保母さんは時折後ろを向き、黄色い声を張り上げて子供等を叱ったりなだめたりしている。どうもすれ違うのが大変そうなので、私は歩道から一段上がった場所で退避する事にした。
彼女が私の横を通り過ぎる瞬間、ほんの一瞬だけ私の方を向き、
「コノコダチ、ミナオマエノコドモヨ。ワカテルカ!」
と片言の日本語でなじって来た。
何を言われたのか理解出来ないまま、目の前を通過する子供の列に見入っていた。色とりどり、大きいの小さいの。子供の胸に下げられた名札には片仮名で「ワム」「ォトキ」等と書かれている。
ぼんやり眺めている内に、別の風景が脳裏に浮かんで来た。私が丁度この子達位の頃。
親戚の家の物干し台のすぐ前を東海道線が通っていた。遠くから抑揚のない「ホー」等と言う電気機関車の暖かい汽笛が聞こえて来ると、矢も楯もたまらず階段を転げ登り、
「1台、2台…」
と貨車の数を数えるのが好きだった。そして子供故に途中で数が判らなくなり、口惜しいから次の貨物列車が来るまで寒かろうが雨だろうが、テコでも動かない、そんな物干し場の景観だった。
「まぁね、若い内は色々あるからね、でもこんなに産ませる事はないでしょう」
急にそう言われたので我に返ってそっちを見ると、子供等の最後尾を固めていた年輩の保母さんの言葉だった。
(待て、俺はそんなに色々はなかったぞ!)
そう言い返そうとして彼女の方を見ると、紫の夕闇に赤いテールランプを流しながら、緩いカーブを切って土手の上を走り去る貨物列車が見えた。