課長の幽霊を見に行く
モノレールの駅に課長の幽霊が出ると言うので皆で行ってみる事にした。
確かにホームでボンヤリしている人物は、見覚えのある課長だった。買い物かごからフランスパンをはみ出させた女性が課長の体を通り抜けて行ったので、やはり幽霊なのだろう。
「やっぱりあれ、課長の幽霊だよ」
「通り抜けましたもんね」
そんな会話が聞こえたのだろうか、課長は車内の私達に向かって嬉しそうに笑い掛け、手を振ったり「おいでおいで」をしたりしている。
そして私達は誰一人として課長と目を合わさず、明後日の方を見たり新聞を読む振りをしたりしていた。
課長は心外そうな表情を見せて、窓を叩いたり何かを叫んだりしていた。課長にして見れば、自分に気が付いた途端に皆がモノレールから飛び降りて来て、
「課長、何か食いに行きませんか」
「課長、また皆で温泉に行きましょうよ」
等と取り巻いてくれるものだと思っていたに違いないだろう。
しかし私達は課長の幽霊を極力無視した。モノレールが発車した後ホームを見ると、課長がポツンと佇んでこちらを眺めている姿があった。
全員は自責の念に駆られてムッツリと黙り込んだ。誰かが腹が空いたので、海沿いの駅で降りて何かを食べようと言った。
降りた駅はホームの全長が階段になっていて、そのまま浜に出られる駅だった。
「心が辛くても腹は減るんですね」
体の大きいある後輩が泣きじゃくりながらそう言って、ハンバーガーを食い散らかしていた。