伊勢商人から貰う







病院の待合室の前に大きな船形の石があり、私はその上に立っていた。

その周りを数十人の伊勢商人が取り巻いて、如才ない口調で私を褒めちぎっていた。曰く爪の根元の白い所が実に吉相ですな、曰くあなたさまのネコの額は却って福相でござります、と言ったような、どう受け取って良いのか判断出来ない曖昧な誉め方をしていた。

その内一人の伊勢商人が大きな紙袋を手渡すと、深々とお辞儀をして去って行った。それに倣って他の伊勢商人達も、後に続いて何処かへ歩いて行ってしまった。私は少しほっとして渡された紙袋の中を覗いて見た。

大きな白い毛糸球のようなフワフワした菓子が無造作に詰め込まれていた。取り敢えず食べて見るとそれは薄甘く、「羊羹を漬けておいたぬるま湯」を飲んでいるような得体の知れない味がした。

私は、石の上に佇立して衆人監視の中モノを食べる事が恥ずかしいと思いながら、その薄ら不味い菓子を食べ続ける事を止めまなかった。なるほど、こう言うお遊びなのだな、と頭のどこかで納得していたからである。