百花繚乱に加うるに
崖下の駅だった。駅のすぐ下は波打ち際で、海の色は何処と無く日本海を思わせた。
大した理由も無く列車を降りた私は、次の列車を待つ間ホームをウロウロするしかなかった。そうする内に地元の人々が大勢でネコ車を押して反対側のホームに上がって来た。ホームの後ろの斜面に草花を植える作業をするらしく、ネコ車には色鮮やかな花の苗が満載されていた。
頬被りした女性達が手分けして斜面に散って行くと、瞬く間に斜面の土は草花で埋まって行く。ネコ車は見ている間に空になった。
他にする事も無いので黙って見ていると、女性の一人が、花を取る作業を手伝って欲しいと頼んできた。こんな寂しい駅では何もする事もないだろう、と。確かに次の列車まで随分と時間があるので承知し、私は彼女の後に附いて波打ち際まで降りて行った。
彼女は笊を手にすると海水に浸し、数回揺すって引き揚げると笊は色とりどりの花で一杯になった。不思議に思っていると、
「昔この沖合いで花の種を積んだ船が沈没して、それ以来この浜ではこうして花が取れる」
そう彼女は説明した。
とすると海底は相当な広さの花畑になっている筈で、それは是非見てみたいと思ったが、そう言うと彼女は疲れたような声で、
「見ない方が良いモノだってあるよ」
そう言うと、さっさとネコ車を押して駅の方へ上がって行った。