阪南市の山口さん







視力検査用のチャート。

私はそのデタラメなCマークを見詰めながら片手には早押し用のスイッチを握って緊張していた。チャートからの何かの情報をきっかけにスイッチを押すと言うお約束だけは承知していた。
始めの内チャートのCマークの中には「三角の中に渦巻き」とか「丸と三角と四角だけで構成された『井戸から出て来る幽霊』」などの絵が出現していたのだが、その内にCマークがウズウズと動き出し、「目鼻立ちがそれなり整っていながらどこか三枚目を思わせる女性」の顔に見えて来た。
突然、その女は鼓膜が裂けんばかりの神経に障る大声で、

「東淀川区のおっさんもびっくりの美味しい刺身やでぇ!」

と、張り扇をバンバン叩きながら叫んでいる。急に画面が変わり、

「あ、阪南市の山口です。わたい今年で61になりまんねんけど、あないゴッツイ刺身喰うたの初めてでしたわ」

等と、胡麻塩頭のおっさんが、先ほどの女性とは打って変わった低いテンションでボソボソ喋っている。
来るか、来るか、もう来るか。
また画面が変わり、

「海浜ホテルへおいでなはれ! 新鮮な海の幸と…」

キター! カカカカチカチカチ…

猛然と手にしたスイッチを押しまくった。その後別に何も起こらなかったが、これが世に言う「サブリミナル効果」なのであるな、漠然と理解した。

スイッチを押している最中、どこかで

「お前は昔か!」

と言う漠然としたツッコミが入った。