チャールズさん







シーン1


戦時中の日本のどこかの街角。サイドカーに乗った憲兵が、街角で油断無く目を光らせている。問題はその憲兵では無く、彼の腰に下げた拳銃のホルスターに「その人形」がぶら下がっていた事だ。

その人形は「チャールズさん」と言う名前で一種のお守りである。戦時下の都市生活者の間で大流行していた。

それは市販もされていたが大抵は手作りで、一つ一つ顔が微妙に違う。ポパイに出て来る「ウインピー」のような顔をしている。握りこぶし大の三頭身のとぼけた人形であった。これを身に付けていると焼夷弾の方で避けてくれる、と言うので、皆こぞって身に着けている。女性は肩から下げた胴乱に、男性は背負った背嚢にと。

アメリカとの戦争に勝った暁には「チャールズさん」は神社に奉納され、供養されるのだ。


シーン2


豪勢な応接間に山と積まれた「チャールズさん」を見て卒倒しそうな様子の白人女性。恐らく彼女はジーン・マッカーサーだろう。

戦争が終わったので、多くの日本人が感謝の積りでGHQに持ち込んだそうだ。


シーン3


ヤフーオークションの画面。

昭和20年8月14日までは「チャールズさん」は高値で取引されているが、終戦の詔勅が下った15日以降は誰も買い手が付かず、オークションに参加する人もいない。

キッズオフの店頭では、「チャールズさん」の買取不可の掲示が。

ポツダム宣言受諾の経緯を知っていた高級軍人や政治家は、その前に早めに売り抜けたので損をしなかったと言う。