コーヒー前の仕事
高そうな…ではなくて高級そうなレストランで食事を終えると、1人のボーイがテーブルに水の入った銀色の器を置き、恭しく一礼して下がった。
入れ替わりに別のボーイが、真っ赤に焼けたゴロタ石をやっとこで挟んで持って来ると、洗面器の水の中に静かに漬けた。冷たそうな水は一瞬で沸騰し、物凄い熱気が顔を襲った。
目を丸くしていると、今度はまた違うボーイが「透明な筒の中に粒胡椒やら岩塩やらが入ってて、頭をニジニジすると下から胡椒や塩が降って来るヤツ」を小盆に載せて差し出した。その中にはコーヒー豆が詰っていて、どうやら煮えた湯の中にコーヒーの粉を「ニジリ落とせ」と言うのであろう。
なるほどそう言う物なのかなと思いながら、湯気の上でガリガリニジニジしていると、湯の表面には粉と化したコーヒーが浮かんで、それはそれで良い香りがしていた。その作業が段々面白くなって来た頃、
「お客様、その辺で結構でございます」
と言って来た。そうして、これを飲むのかな、と思っていると、声を掛けてきたボーイが、
「お客様、食後のコーヒーでございます」
と当たり前のコーヒーを目の前に置き、他の2人のボーイと共に器と筒を持って行ってしまった。
微かに酸味の漂うコーヒーを口に運びながら、さっきの作業は何だったのだろうと少し考えて、止めた。