テレビ塔







神社の境内に「テレビ塔」が建ったと言うので見に行った。

テレビ塔は厚い鉄板で出来た、高さが二階建て位、底辺が1メートル位の四角錘で、四面に20インチ位のテレビ画面が付いていた。

物珍しげな表情をした人々が三々五々集まって来ると、藪陰から急に役場の人が出て来て、塔の基部の蓋を開けると薪をくべ始めた。さぁさぁ、熱いから下がって、やけどするよ、等と言って役場の人は見物を下がらせる。

その内に良く火が回ったのかテレビが点き、観衆は大いに喜んで好みの番組を放映している画面の前に移動して行った。「風車の作用」とやらによって塔が少しづつ回転し始め、観衆もそれに合わせて塔の周りをぐるぐる回り出す。

役場の人が何だか慌てていた。何か手違いがあったと見えて、回っている観衆に半泣きの顔で何かを叫んでいる。それが何の警告であったのかすぐに理解出来た。今や恐ろしい速さで回転しているテレビ塔のてっぺんから、猛烈な勢いで熱湯が噴出し、観衆の頭から降り注ぎ出した。

観衆は恐惶状態となって逃げ出すのだが、そのままクモの子を散らすように四方へ逃げれば良い物を、わざわざ塔の周りの軌道を外れる事無く猛烈に駆けているのが不思議だった。子供、大人、老人、犬の順で一列になって悲鳴を上げながらぐるぐる走っている様は、何か面白がっているようにも見えた。子供などはアチ、アチ等と叫びながら笑い転げている。

私はその様子を眺めながら、「そうか、これがジェットコースターと言うモノなのだな」と納得して、その場を後にした。