ボロ美、極まれり。



夕桐
 
 


奇人という言葉があるなら、

奇店という言葉があってもよかろう。

サイトでさんざんその様は聞いていたので、覚悟はしていた。

ネットに点在するこの店のレポートは、正確なものだった。



わかりにくい店の存在。

ああそうだとも。メンバーの一人は店の前から

「店の在処がわかりません」と電話してきた。

ボロ美の極。

ああそうだとも。私は土足のまま2階に上がって

大将に「どこに靴は脱ぐのですか」と聞き

「下で脱いできてください」と言われ、引き返した。

散乱するレトロな物品。

ああそうだとも。黄色く変色したポスターの中から横たわった

桜田淳子が、私たちを眺めておったわ。

酒は飲み放題。

ああそうだとも。確かにそこいらに転がっている

酒は飲み放題だった。ビール、焼酎、酒、ワイン。

でも、誰か教えてくれ。ワインのコルクの抜き方を。

十年ぐらい前に一度開封され、再び詰められたらしき

ワインのコルクの抜き方を。

供される豊富な魚介類。

ああそうだとも。まず一人一匹ずつ二の腕ぐらいある

伊勢エビが出てきた。で、オコゼの刺身、アワビの刺身、

あと何かが出て、最後にカジキマグロの鍋がどっかんと

出てきた。喰いきれず残した。で一人五千円。



店の評価は両極に別れるだろう。

入店と同時に周囲を取り巻くトリップ空間。

「あんたの持ってる常識は、ここでは通用せんよ」と

八畳間全体から宣告される痛快さ。

今回、出向いたのは全員アウトドア志向の面々であった。

野で喰らい、糞たれることに慣れている我々にとって、

ここはまさに大人のワンダーランドである。

一方、きまじめな方はここに来てはいけない。

部屋の床というものは水平に貼られているものだと

信じていたり、お手拭きは台拭きとは別なものだと

信じていたりする類の人をここに誘ってはいけない。

なかんずくシルクのブラウスを着てるような女の子は、

泣き出すだろう。

子どもも、教育上の配慮から慎重に排除される。

それでも私は一度行っときなさいと言いたい。

一生語れるネタを仕入れることができる。

大将は良心的な人だ。心配ない。


追伸:漏れ聞くところによると閉店の模様。