Let's Enjoy Corydoras ! >> 愚考 >> ナヌスとナポエンシスに関して

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コリドラス・ナヌスC. nanus Nijssen & Isbrucker, 1967)とコリドラス・ナポエンシスC. napoensis Nijssen & Isbrucker, 1986)に関して (写真紹介より)



Type locality


 写真のコリドラスは、「ナヌス」という名前での販売でしたが、記載されている所謂本物のナヌス( C. nanus Nijssen & Isbrucker, 1967)のタイプ産地は、スリナム共和国であり、国内には未入荷ではないかと思われます。(←オリジナルのタイプ産地であるSuriname river system, Gran Rioでは再採集ができなかったということですが(ホロタイプ、パラタイプともに幼魚個体)、別水系であるMarowijne river system, Oelemari Riverで採集された2尾の成魚も、以後1970年のNijssenの論文でナヌスと認定されています。)

 一方、ナポエンシス( C. napoensis Nijssen & Isbrucker, 1986)のタイプ産地は、エクアドル領のナポ河上流の支流(ホロタイプとパラタイプ約20尾)と、ペルーのロレト州イキトス近郊(パラタイプ3尾のみ)ですが、原記載論文の内容を読む限り、ホロタイプとパラタイプのオス個体と思われる標本において、背ビレがブラックトップになることが記述されています。また、記載論文とは別に、アムステルダム大学動物博物館に保管されたカラー写真のホロタイプ個体標本(ZMA 119.226)も個人的に確認しています。ホロタイプ(下図3枚目)では頭部にスポットは見られませんが、パラタイプでは体にスポットが入ることが論文中で示されています。
 ペルーのイキトス近郊で採集されるコリドラスは比較的豊富に輸入されていますが、上のオス個体の写真は、背ビレにブラックトップが入り、体のスポットの入り方など、ナポエンシスとして記載されている種の特長とかけ離れていないと判断されるため、ここではナポエンシスとして掲載します。いくらかタイプがあるように思いますが、写真は体全体が金色に強く発色した状態です。(エレガンス系のオス個体は、飼い込むと色彩が鮮やかに変化するものも多いです。)

 Nijssen & Isbrucker, 1986の論文中では、ナヌスとナポエンシスとの違いについても論じられていますが、ナヌスの方が体形がスレンダーで、吻が比較的突出した形状を呈することと、ナヌスの背ビレはブラックトップではなく不規則な網目模様(Oelemari River産のオス個体の場合)であると指摘されています。話しは変わって、ペルーのナナイ河辺りを産地とし、特にオスの背ビレ尾ビレが美しく黄色に発色するエレガンス体型のコリドラスがいますが(C123 in DATZのようなタイプで、背ビレにブラックトップはありません。)、ナポエンシスの記載では、地域変異として、このような個体群の特徴に該当する説明が見当たりませんので、個人的には正式名称を持たない未記載種であろうと考えています。(←慎重に言うと、同じペルー・ナナイ河産のパラタイプ標本(2尾)の方は実際に確認できていませんので、とりあえず結論は保留します。)
 一方、同個体群の黄色い背ビレに見られる不規則なドットの入り方からは、産地がペルーとスリナムで全く異なりますが、どちらかと言えばナヌスと見なされているコリドラスのOelemari River産のタイプに近いと言えなくもないかもしれませんが、ナヌスの記載文と標本を確認する限り、ナヌスの背ビレは赤茶色で、尾ビレは灰色系であり、その他、全体として相違点も少なくないように思われます。いずれにしても、色彩の魅力的なコリドラスであることに違いはありませんので、上記のようなことにもご興味あられる方は、諸々の判断材料としてご覧いただければと思います。



Type locality

Corydoras nanus Nijssen & Isbrucker, 1967, holotype, (RMNH 25333, SL 23.0mm), illustrated by H. H. Mittelberg.
下記参考文献2、Pl. 5-1より引用。





Corydoras nanus Nijssen & Isbrucker, 1967, Oelemari River (ZMA 108.417, SL 43.1mm), illustrated by J. Ruting.
下記参考文献1、Fig. 11より引用。




Corydoras napoensis Nijssen & Isbrucker, 1986, holotype (ZMA 119.226, SL 36.5mm), illustrated by J. Zaagman, ZMA.
下記参考文献3、Fig. 34より引用。


■参考文献の該当ページ
1. Nijssen, H. (1970) : "Revision of the Surinam catfishes of the genus Corydoras Lacepede, 1803 (Pisces, Siluriformes, Callichthyidae)", Beaufortia 18 (230), pp. 24-26.
2. Nijssen, H. and Isbrucker, I. J. H. (1967) : "Notes on the Guiana species of Corydoras Lacepede, 1803, with descriptions of seven new species and designation of a neotype for Corydoras punctatus (Bloch, 1794) (Pisces, Cypriniformes, Callichthyidae)", Zoologische Mededelingen 42 (5), pp. 41-42, pl. 5-1.
3. Nijssen, H. and Isbrucker, I. J. H. (1986) : "Review of the genus Corydoras from Peru and Ecuador (Pisces, Siluriformes, Callichthyidae)", Studies on Neotropical Fauna and Environment Vol. 21, No. 1-2, pp. 51-52.

C. ナヌスとして1970年のNijssenの解釈で後記載された、スリナムのMarowijne river system, Oelemari River産の個体標本(下から2枚目の図)については、欧文一般書のGlaser, U., Schafer, F. and Glaser, W. (1996) : Aqualog, reference fish of the world. All Corydoras, p. 12, S19385 にもイラストが掲載されています。 小林氏による「コリドラス大図鑑」のp.51に掲載されているナヌスの図も、このAqualogという本に出ているものと同じですが、元来、命名の基準とされたタイプ標本とは別水系の個体です。図に示された引用文献は、正しくはNijssen, 1970の論文であり、誤記と思われます。

(2006年4月10日, TA, 2006年4月29日加筆修正, TA )


コリドラス・ナヌスに関しては、上の記事を公開した後、2006年5月上旬にスリナム共和国内のコメリネ河(タイプ産地とは別水系)で採集されたというタイプが入荷しました。
(2006年5月12日追記)

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