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「沖縄慰霊の日」によせて

  沖縄には「命どう宝」(ぬちどうたから)という言葉があります。人間にとって命ほど大切なものはない、命を粗末にしてはならないということでしょう。こうしたこともあって、自殺者は一族の墓(亀型の沖縄独特の墓)に入れて貰えず、墓は別の所へ建てなければならないと聞いたことがあります。
 ところで、6月23日「沖縄慰霊の日」の朝日新聞社説は「悲劇と狂気を思い起こす」と題し、その中で、<慶良間諸島の集団自決について「沖縄ノート」に記した作家の大江健三郎さんは「沖縄戦がどんなに悲惨で、大きなことだったか。集団の自決を頂点として、日本軍が沖縄の人々に大きな犠牲を強いたことを日本人の心の中に教育し直さなければならないと思う」と話す。>と書いています。
 この社説では触れていませんが、この「沖縄ノート」(1970年岩波新書)を書いた大江健三郎さんや、家永三郎「太平洋戦争」などを出版した岩波書店を被告として、いわゆる沖縄の「集団自決」をめぐり大阪で裁判が始まっています。
 原告は当時の座間味守備隊長梅澤裕氏(88)と、渡嘉敷島守備隊長赤松嘉次(故人)の弟赤松秀一氏(72)で、虚偽を記されたとして慰謝料・出版差止め・謝罪広告など求め、昨年8月大阪地裁に提訴しました。
 原告側弁護団は、大阪アジア靖国訴訟で補助参加人請求を続けてきた「靖国応援団」の弁護士や、「百人斬り裁判」の弁護士ら三十数人が名を連ね、顧問には自由主義史観研究会の藤岡信勝代表や「新しい教科書を作る会」のメンバーらが名を連ねています。一方被告側は岩波書店の顧問弁護士ら数人です。
 原告側は提訴と同時に「沖縄集団自決冤罪訴訟を支援する会」を発足させ、一方被告側は今年6月9日(第4回口頭弁論のあった日)「大江健三郎・岩波書店沖縄戦裁判支援連絡会」を発足させました。次回第5弁論は9月1日(13:30)の予定。
 この訴訟を大まかに言えば、座間味や渡嘉敷での「集団自決」は守備隊長らによる命令で行われたのではないのに、そのように著作で記述されているのは虚偽であり名誉毀損だというものです。
 訴状では、曾野綾子『ある神話の背景−沖縄・渡嘉敷島の集団自決−』(1973年文芸春秋初版。今年5月『沖縄戦・渡嘉敷島「集団自決」の真実−日本軍の住民自決命令はなかった!』と題名を変えワック社から再版。帯には「大江健三郎の『沖縄ノート』のウソ!」などとある。)を全面的に引用し訴訟の論拠としています。
 原告側の「冤罪訴訟を支援する会」の「呼びかけ」では、<誤った情報の一人歩きによる自虐的歴史認識から子どもたちを解放し、健全な常識を取り戻す国民運動にしよう>と言う主旨が述べられています。
 裁判では、守備隊長ら「集団自決命令」があったかなかったかが争点になっていますが、座間味で135人、渡嘉敷では329人が、現実に手榴弾などで自決が行われています。しかも親が子どもを絞め殺したり、鉈や鎌で殺すなど極めて悲惨と
いうほかはない「集団自決」でした。「自決する武器を要求されたが拒否した」とはいうものの、警官や防衛隊員によってすでに手榴弾は配られていました。「天皇陛下からお貸し下された大切な武器」がそこらに転がっているわけはなく、厳重な管理に置かれている武器の存在を、守備隊責任者が知らないわけはないでしょう。
 沖縄ではかねて方言が禁止され、沖縄戦では使用すればスパイとみなされたと言います。兵隊さんのことだからと、要求されればガマを立ち退き、乏しい食料も提供しました。大田海軍少将は、<沖縄県民はよく戦った、後世の配慮を願う>と言い、牛島陸軍中将は、<捕虜になってはならない、最後の一兵まで戦え>と最後の命令を下し自決しました。沖縄皇民化政策のなかで「戦陣訓」の<捕虜になるくらいなら死ね>は徹底して教育されてました。
 投降する住民は「通的行為者」、日本軍の配置など知る者・スパイと見なされ処刑されました。こうした例が沖縄では三十数件あり、瀕死の重傷をうけかろうじて生き延びた住民の証言もあります。「前門の虎後門の狼」というか、上陸寸前の米軍、それを向かえ撃とうとする日本軍。座間味や渡嘉敷の小さな島では行き場所を絶たれた住民の選択肢は、軍命令があろうがなかろうが「集団自決」という行き場しかなかったのです。
 今回の訴訟で、原告側は「日本軍は沖縄住民を守らなかった」など「神話」であり日本軍を貶めるもので日本軍は立派だった。「集団自決」は日本軍の足手まといにならぬよう、住民の自発性に基づいて行われたものだった。「従軍慰安婦」問題のように総ての教科書から「神話」を抹殺するのが狙いであるようです。
 なお、いま有事を想定した「国民保護法」マニュアルつくりが自治体などで進められています。自衛隊の戦争態勢の足手まといにならぬよう、自治体や警察・自衛隊が「国民」を保護・誘導するというのです。これを進めていくうえでも、かつての「神話」は邪魔になるわけです。沖縄では米軍基地の問題もありますが、米軍・自衛隊「一体化」が進められるなかで、新たにパトリオット・ミサイルなどが配備されようとしています。

06/06/24 W
反戦・反基地ブログ