歌集「小さな抵抗」を読む
著者の渡辺良三氏のことは、以前何かで読んだことがあるが、今回、岩波書店 から『歌集 小さな抵抗~殺戮を拒んだ日本兵』(岩波現代文庫
2011.11月)が出 版された。 渡辺氏は学徒兵として44年、中国戦線に配属され、そこで49人の新兵と共に5 人の「八路軍の捕虜」とされる中国人の刺突・虐殺を命ぜられる。新兵に敵を殺 す「度胸をつけさせる」という新兵教育一環であるが、刺突銃を受け取った渡辺 氏はキリスト者としてこれを拒否する。はじめからそう決意していたわけではな かったが父の言葉が浮かび、とっさに拒否したのだった。「上官の命は天皇の命 令だぞ、それでもか」といわれても拒否する。結局は「敵前抗命罪」に問われる ことはなかったが、その後は猛烈なリンチやいじめが始まった。渡辺氏22歳のと きだった。 父弥一郎氏は内村鑑三の流れをくむ無教会派の牧師で歌人。その影響もあって 良三氏も戦線の日々、廁のなかで歌を詠むのが生きる励みとなった。同歌集には 約
700首の歌が納められているが、復員時これらは下着に縫い込んで検閲を免れ 持ち帰ることが出来た。父親もまた反戦言辞で検挙され、家族は「スパイ一家」 として、近所から配給食物の拒否などの差別などうけ困苦の道を歩んだ。 渡辺氏は復員後、大学復帰、国家公務員をつとめ退職後ようやく歌集の編纂に あたり出版されることになった。私は歌のことはよく分からないが、歌に優劣は なくいずれも貴重な記録である。
国際法では捕虜は殺してはならないが、「スパイ」は軍法裁判で処刑されるこ ともあった。中国人刺突はよく聞くが、多くは「度胸をつけさせる」のが目的、 「死人に口なし」、本当にスパイであったかどうかは分からない。なにしろ中国 人全部を「敵」に戦っていたのであり、周辺の民を捕まえ「スパイだ」との名目 で虐殺したのが皇軍であった。渡辺氏は「敵前抗命罪」で軍事裁判にかけられな かったようで、リンチで死ぬこともなく激しい戦線で生きぬき帰還した。
以下は蛇足。自衛隊の三大訓練目的は射撃、持久走、銃剣術。現在も銃剣刺突 訓練が行われており、「そんなへっぴり腰で人が殺せるか」と戦争体験のない戦 後生まれ上官が叱咤する。「銃剣道」は80年頃から国体に参加し今もつづいてい るが、殆どは自衛隊関係者であり、連絡先が自衛隊基地のところもある。 97年の大阪国体では近くで銃剣道大会が行われたが、「これだけは止めさせた い」と反対を申し入れた。「剣道も人殺しではなかったか」と答えがかえってき たが、翌年からは白服は剣道着に改編され、現在も国体参加は続いている。
2012/01/11 W
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