食料安保強化法成立の背景
【戦争あかん!ロックアクション】荒木淳子
農政の憲法といわれる、「食料、農業、農村基本法」の改正が5月に成立しましたが、多くの人はこのことを知らないと思います。堤未果さんと鈴木宜弘さん(東大教授)のお話を参考にまとめてみました。
日本の農業はいま危機的状況に追い込まれています。コスト高の中、価格転嫁ができず赤字が膨らんで、農家がばたばたと倒産しています。日本人の主食であるコメについていうと、コストが膨らむ中、昨年政府は農家を支援するどころか、コメの買取価格を下げました。コメ農家を潰すつもりなのかと耳を疑いたくなるような政策です。そこに追い打ちをかけるように昨年の異常気象で安く買い叩かれる二等米の比率が増え、いくらがんばって作ってもとても農業では食べていけないと、さらに廃業するコメ農家が増えました。
世界情勢は悪化しており、お金を出せばいつでも買える時代ではなくなりました。そんなとき25年ぶりに行われた農業基本法の改正は、本来であれば苦境に立たされている農業の現状を抜本的に改善して農家を支え、食料自給率を上げ、食料危機に耐えられるようにすることこそがあるべき改革の中身のはずです。ところが実際は、食料自給率は数ある指標のひとつとしてあまり重視されず、日本の農業が崩壊しつつあることはある意味仕方ない、ただしその中でごくわずか生き延びる農家がいればその農家が成長産業化すればいいし、大きな企業が入って儲かる農業をやればそれでいい。そのような方向性の改正になっているというのです。
今回の改正で、「食料の安定的供給の確保」が「食料安全保障の確保」と書き換えられています。具体的には、日本からの輸出を増やすために農業を成長産業にするスマート化。それから有事に海外から食料を輸入できるよう、輸出国への投資を増やす。国内の農業を支援するのではなく、海外の食料輸出国へ投資すると言っています。ちなみに日本へのトップ輸出国はアメリカで、これはアメリカの農業に投資をするという意味になりますね。もし有事で輸入そのものが止まってしまったときにどうするかといえば、農家に命令して、花を作る農家もカロリーになるさつまいもなどに一斉に作物転換して増産し、指示に従って供出しなさいと。その増産計画に従わない農家は処罰すると、こんな戦時中のようなとんでもない話になっています。
農業のスマート化といえば聞こえがいいですが、ⅠT大手企業のビル・ゲイツなどが今唱えているのはどういう農業かというと、農家はいなくなってもよい、いなくなった後にドローンとセンサーをめぐらして機械を自動制御して無人農場にして、それを投資家に売って儲けるのが新しい農業のスタイルだと。今回の改正はこのような流れを後押しするものになっています。
種子法廃止、種苗法改悪と、日本の農業をグローバル企業に売り渡す政策が続いてきましたが、今回の改正もその流れの上にあるのでしょう。今だけ・金だけ・自分だけの大企業が儲けるための農業。そこには国民が飢えないための食料の確保も、国民の健康を守るための食の安全もありません。このままだと、気づいた時には日本の農家の多くが消え、一握りの大企業に食をコントロールされ、もはや安全な食べ物を手に入れることすら難しくなる未来がありえないとも限らないのです。そして残念ながら、食の安全や農業への国民のおそろしいほどの無関心が、この流れを許してしまっていると感じざるを得ない今日この頃です。
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