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●入管法改悪反対運動を振り返る 【弁護士】 指宿昭一

1 2023年の入管法改悪法案提出

 今回の入管法改悪法案は、2年前の2021年に政府が提出し、廃案になった法案とほぼ同じ内容のものであった。すなわち、①現在は禁止されている難民申請者の強制送還を可能にし(3回目以降の難民申請者等を送還可能にする)、②強制送還に応じない者に刑罰を科す送還忌避罪を創設し、③被収容者の収容を解くための新たな制度として「監理措置制度」を設ける等というものである。
 2023年3月7日、法案が閣議決定され、衆議院に提出された。

2 衆議院審議における問題点

 4月13日の衆議院本会議で、法案は審議入りした。
 4月21日、衆院法務委員会で参考人質疑が行われた。一橋大学准教授の橋本直子参考人は、難民認定基準を見直さないままで、3回目以上の申請者の強制送還を可能とする法案の危険性を指摘し、「このまま法案を通すのは、無辜の人に、間接的に死刑執行ボタンを押すということに等しい」と述べた。

 同じ21日から、立憲民主党は、日本維新の会と国民民主党と共に、与党との法案の修正協議を始めた。これに対して、市民から、難民申請者の送還を可能にする法案を、若干の修正程度で成立させるべきではないという反対の声が上がった。こうした市民の声を受けて、4月27日、立憲民主党執行部は、与党の修正案に賛成するのではなく、あくまでも法案反対の立場を貫くことを決め、修正協議は決裂した。

 修正協議に参加していた日本維新の会は、法案の骨格は維持したまま、微修正を求め、与党がこれを受入れて、国民民主党もこれに賛成して、4月28日の衆議院法務委員会でこの修正案が可決された。政府与党は、連休前の衆議院本会議成立を狙っていたが、これはかなわず、連休後の5月9日に衆議院本会議で可決された。

 衆議院の審議期間中、国会の外では多くの市民が法案反対の声を上げ、法案に反対する野党議員を励まし続けた。法案審議のある日には、国会前シットインに多くの市民が集まり、その数は日に日に増えて行った。休日には街頭デモも行われた。こうした市民の声がなければ、修正協議が多くの野党を巻き込み、入管法改悪反対の闘いは、実質的に衆議院で終わっていたかもしれない。闘いは、参議院に引き継がれた。



3 参議院審議における問題点

 5月12日、入管法改悪法案は参議院本会議で審議入りした。同時に、収容の期間制限や司法審査を導入し、独立した難民認定機関による難民認定を行うとする野党の入管法改正案・難民法案も審議されることになった。

 日本維新の会の梅村みずほ議員は、審議入りの参議院本会議での代表質問で、ウィシュマさん事件に関して、「支援者の一言が『病気になれば仮釈放してもらえる』という淡い期待を抱かせ、医師から詐病の可能性を指摘される状況へつながったおそれも否定できない」と発言した。これは事実に反する発言であり、ウィシュマさんを冒涜し、支援者を貶めるものである。梅村発言に対しては、市民からの強い批判があった。日本維新の会は、当初、梅村議員の発言を擁護していたが、26日、党の指示を聞かなかったことを理由に梅村議員に「党員資格停止6か月」の処分を下した。

 23日と25日には、参議院法務委員会で、参考人の意見陳述と質疑が行われた。
 参議院審議の過程で、法案の根拠となる社会的事実(立法事実)が崩れていった。「難民はほとんどいない」という難民審査参与員の発言の信用性が揺らぎ、また、常勤医師の確保等の医療体制の強化を図っているという入管の答弁に反する、大阪入管の常勤医が酩酊状態で業務に従事していたという事実が次々に明らかになったのである。こうした立法事実の崩壊が明らかになったのだから、政府・与党は法案審議を止め、法案提出を撤回するか、せめて、立法事実についての再審査をすべきであった。しかし、政府・与党は、審議時間が衆議院と同程度を超えたこと、2回の参考人質疑をしたことを理由に法案の採決に進もうとした。

 参議院法務委員会採決に反対する野党を押し切り、職権で採決に進もうとした参議院の杉久武法務委員長(公明党)に対して、立憲民主党が解任決議案を提出し、これは、6月2日の衆議院本会議で審議され、日本共産党、社会民主党、れいわ新選組、沖縄の風が賛成したものの、自民党、公明党、日本維新の会、国民民主党の反対により否決された。

 さらに、立憲民主党は、法務大臣問責決議案を提出し、7日の参議院本会議で同じように否決された。
法務委員長解任決議案と法務大臣問責決議案の提出により、参議院本会議で法案審議の問題点が明らかになり、また、報道により多くの市民が問題を知ることができた。

 参議院審議の間も、市民は声を上げ続け、これは全国津々浦々に広がった。全国各地の少なくとも150ヵ所で、このようなアクションが行われた。こうした市民の声が、国会内では少数派であった法案に反対する野党議員を励まし、勇気づけ、入管に対する徹底した批判を続けることができたのである。ここに、市民運動と国会議員の本当の連帯が生まれていた。だからこそ、政府・与党は、この市民の批判に蓋をするために、全く道理のない法案の強行採決に進んだのである。

 8日、参議院法務委員会で、強行採決に抗議する野党議員の声を無視して、法案が可決された。野党案は否決された。

 9日、参議院本会議で法案が成立した。この闘いの中で、入管の闇の一部に光が当たった。入管法包囲する社会の批判は高まりつつある。これは、人権無視の入管制度の終わりの始まりである。人権侵害の巣窟である入管制度を全面的に変える闘いは新しいステージに入った。




関西共同行動ニュース No94