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【巻頭言】戦争の準備ではなく、平和の準備を! 中北龍太郎

■大軍拡の始まり

 昨年12月国家安全保障戦略など安保3文書(3文書)が閣議決定され、敵基地攻撃能力保有、5年で軍事費倍増の大軍拡そして全般的な軍事化が決定されました。専守防衛原則を破棄し先制攻撃に道を開く根本的大転換であり、日本を戦争する国に変え、日本発の軍拡競争の激化を招く危険きわまりないものです。今年1月に開かれた日米首脳会談で、両首脳は敵基地攻撃能力や他の能力の開発・効果的運用について協力を強化することを約しました。国会審議も国民的議論もすっ飛ばして、3文書は対米公約となり、新たな大軍拡の起点となりました。


■安保3文書の本質

 3文書により、日米安保条約は、本来は日本防衛目的(その見返りに米軍に基地を提供)であったが、中国との戦争準備のための軍事同盟へと変態を遂げ、日本は対中包囲網の一角を形成することになりました。

 3文書は、①国家安全保障戦略、②国家防衛戦略、③防衛力整備計画のことです。①は総論としての国家戦略、②には敵基地攻撃能力の保有、宇宙・サイバー・電磁波作戦、南西地域の防衛など今後の軍事の方向、③は自衛隊の部隊編成や必要兵器が示されています。

 3文書の本質を一言でいえば、その徹底した中国敵視ぶりと、敵基地攻撃能力を中国に向けている点にあります。①②では、中国を「これまでにない最大の戦略的な挑戦」と言い切っています。しかも、東アジアでウクライナ戦争と同様の深刻な事態、すなわち中国による〈台湾武力解放〉が発生する可能性があるとしています。こうした情勢認識をもとに、3文書全体が中国への対決姿勢と、対中戦争も辞さないとの決意を示しています。



■米戦略と日本

 バイデン政権は、昨年10月に国家安全保障戦略と国家防衛戦略を発表しました。その中で、中国との覇権争いを最優先し、対中戦略として、軍事力をはじめあらゆる分野で持続的な優位性を維持し、そのために同盟国・パートナー国との最大限強力な連携を構築するとしています。このように、米国の安保戦略は、日本をはじめとする同盟国などの力を最大限動員して中国に対する優位性を維持し、中国との覇権争いに勝って米国の覇権を守るという点にあります。日本は覇権争いの駒と位置づけられているのです。
 今年1月の岸田・バイデン共同声明の中でバイデン大統領は、「日米同盟の現代化に向けた比類なき進展」と述べ、3文書を絶賛しました。日本政府が米戦略に全面的に協力することを約した見返りの誉め言葉です。



■ミサイル戦略

 米国が中国に対する軍事的優位性を維持するうえでとりわけ重きをおいているのが、ミサイル攻撃・迎撃能力の強化です。第1列島線(日本の南西諸島からフィリピン諸島までつらなる島しょラインを指す)沿いの地上配備型対艦ミサイルと対空ミサイルを持った統合部隊の配備を重視しています。

 中国は、95年ころに起きた台湾海峡危機以降、有事の際に米軍の軍事介入を阻止するために、米軍の西太平洋へのアクセスを妨害する能力を強化してきました。こうした能力は「A2/AD(接近阻止・領域拒否)能力」と名づけられています。

 米国は、この能力を無効化するために、南西諸島をはじめとする第1列島線上にミサイルを配備しようとしているのです。米軍が第1列島線上にミサイルを配備すれば、中国軍の艦艇・航空機は第1列島線を越えて西太平洋に展開できなくなり、東シナ海や南シナ海に封じ込めることができます。配備されたミサイルは、接近してくる艦艇・航空機を攻撃するだけでなく、場合により中国本土の海軍・空軍基地も攻撃の対象となります。

 日本政府が長距離ミサイルの大量取得と敵基地攻撃能力の保有を決めたのも、米国の戦略にもとづくものです。実際、沖縄・南西諸島にミサイル部隊が着々と配備されています。まさに、「日米同盟の現代化に向けた比類なき進展」に向けて突き進んでいるのです。

■日米共同の敵基地攻撃

 敵基地攻撃は、日本単独というよりも、日米共同で行使される可能性が強まっています。というのは、米国の世界軍事戦略において、「統合防空ミサイル防衛」(IAMD)が採用され重視されているからです。IAMDは2010年代半ばから、米国が地球規模で構築してきました。17年米統合参謀本部発表の「対航空・ミサイル脅威」によれば、IAMDではミサイル防衛とともに相手国の領域において行う攻勢対航空作戦が重要とされています。この作戦の攻撃目標は、基地だけでなく、指揮統制機能や基地を支える鉄道・道路・港湾等を対象にしています。また、この作戦では先制攻撃を行うと強調しています。米空軍発行の機関紙22年夏号によると、IAMD実現のために同盟国とりわけ日本が絶対に重要とされ、同盟国とは切れ目のない融合が求められているとしています。

 米国は戦後、グレナダ、リビア、パナマで先制攻撃を繰り返してきました。日本がIAMDに組 み込まれれば、日本も間違いなく先制攻撃を常態化させる国になってしまいます。平和の国から戦争する国へ、いま日本は重大な岐路に立っています。

■専守防衛と合憲論の崩壊

 2015年制定の安保法制は「我が国と密接な関係にある他国に対する武力攻撃が発生し、これにより我が国の存立が脅かされ、国民の生命、自由及び幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険がある事態」(存立危機事態)に集団的自衛権の行使を認め、他国防衛を制度化しました。これは明らかに違憲です。なぜなら、他国防衛は、日本を攻撃していない武力攻撃国に対して武力行使をすることになり専守防衛原則に違反しているからです。

 自衛隊が憲法に違反するどうかは戦後史における大争点でした。しかしながら、政府は違憲ではないとし、1954年の自衛隊誕生以来その根拠を専守防衛原則に求めてきました。ところが、2015年の安保法制による集団的自衛権の行使容認と、敵基地攻撃能力保有の閣議決定によって、専守防衛原則が根本から破壊されてしまいました。これにより、自衛隊合憲論の根拠が崩壊してしまいました。

 憲法9条2項は「戦力は、これを保持しない」と定めています。歴代政府は、次の武力行使の3要件によってその実力行使が制約されているため、他国の軍隊と違って「戦力」にあたらないという理由で合憲としてきました。すなわち、自衛隊は①外国からの日本への武力行使が発生しない限り武力を行使せず、②その場合であっても他に手段がない時に限られ、③武力攻撃を排除するために必要な最小限度の武力行使にとどめる、と説明してきました。こうした解釈から、集団的自衛権の行使や海外での武力行使は許されないとされてきました。この点こそが、専守防衛原則の本質・真髄でした。また、自衛隊の武力行使は日本の領域、近接する公海・公空内に限定され、その装備も相手国領土への攻撃をもっぱらの目的とするものは保有できないとされました。つまり、「盾」に徹するという日本の国のかたちの根幹になってきたのが専守防衛原則であり、合憲論の根拠だったのです。

 集団的自衛権の行使と、3文書によって敵基地攻撃能力が認められ他国に対する攻撃的武器を保有できるようになった結果、9条は死文化されようとしています。かくして、戦争の危機が確実に迫っています。

(この原稿は、在日韓国朝鮮人問題活動センター機関紙「であい」76号に掲載された論文を許可を得て転載させていただきました。)




関西共同行動ニュース No94